2025年富士総合火力演習から継戦能力について考えてみる〜戦い続けるためにはお金も必要
派手な演出は極力省いた演習に好感
2025年の富士総合火力演習がYoutubeで配信されました。
コロナ禍以降、一般公開はやっていませんので、この配信動画のみが富士総合火力演習を観覧する唯一の手段。
これには賛否があろうかと思いますが、私は好意的に受け止めています。
(参考記事:令和5年度以降は富士総合火力演習の一般公開は中止〜陸上自衛隊は本気で「戦う」ことを考え始めた!)
私が現役の頃は、陸自装備品を使った年に一度の壮大な花火大会のような感じで、主催する富士学校も「いかに一般客に満足してもらえるか」
に注力していたような印象がありました。
例えば、偵察隊のオートバイにジャンプ台を使ってジャンプさせたり、前輪を浮かせたウィリー走行をさせてみたり。
甚だしいのは、特科の砲弾で富士山を描くというあきれた演出もありました。
しかし、一般公開をやめて以降は実際的な状況の再現に専念しているように思えます。
サーカス的な演出や一般客の接遇がなくなって隊員の士気も上がったのではないでしょうか。
一方で、報道によると今回の総火演において1日だけで76トンの弾薬が消費され、その額は8億7000万円以上とのこと。
1日だけで考えれば、まあまあといった数字かもしれません。
しかし、ウクライナ戦争を見れば分かるように、どんなに短期終結を意図していても長期化してしまうことあり得るのです。
むしろ、戦争ではそれが常態ではないでしょうか。

有事にどれだけ弾薬を消費するか?
仮に日本に対する武力侵攻があったとします。
場所は今回の総火演の想定のように離島で、南西地域としましょう。
これが武力攻撃事態か存立危機事態かは、日本側の定義なので一旦無視します。
とにかく、南西地域に武力侵攻があり、いくつかの離島で戦闘が生起したとします。
毎日総火演規模の戦闘が生起する時もあれば、彼我ともに態勢立て直しのため戦闘が沈静化する時もあるでしょう。
ですので、平均して1週間に3日程度、南西地域全体で総火演規模の戦闘が起きると仮定します。
そうすると、陸上戦闘だけで1週間に約228トン、約26億円分の弾薬を消費したことになります。
1ヶ月に換算すると912トンで104億円。
今の戦争は長期化することが予想されるので、これが1年続いたとすると、10,944トン、1,253億円。
令和7年度の弾薬・誘導弾の概算要求額が3,440億円なので、陸上戦闘だけで年間予算の36%を消費することになります。
なお、これにはSSM(地対艦誘導弾)や短SAM、近SAMといった高価な誘導弾は含まれていません。
また、多数消耗するであろう海上自衛隊の魚雷やハープーンミサイル、SM-3、航空自衛隊のPAC-3のような地対空誘導弾も含まない価格。
南西地域では、陸上戦闘以上に海上・航空戦闘が活発になる可能性がありますので、これらを含めると調達価格はかなり膨大なものになることが予想されます。
しかも、陸上戦闘用弾薬は狭い離島に大量集積できないので、船舶で輸送し続けることも想定されます。
この全てが現地に無事に届くとは限りませんし、また、届いても敵の攻撃で破壊されてしまうかもしれません。
それらを見込んで多めに調達することになろうかと思います。

戦い続けるにはお金も必要
継戦能力の話題になると、弾薬や装備品の生産能力に目が行きがちですが、生産する裏付けとなるお金についても考える必要があると思います。
必要な弾薬を間断なく調達し続ける資金を捻出することも継戦能力の一つと言えそうです。
いくら有事とはいえ、弾薬メーカーにタダ働きさせる訳にはいかないので。
国家予算の中には、緊急用として予備費があり、令和7年度は7400億円程度計上されています。
そのほか、想定外の事態が起きた時は補正予算を組んで対応したりもします。
しかし、弾薬だけでかなりの出費があり、これに加えて燃料費、艦艇や航空機といった高価な装備品の損耗に伴う出費も必要になります。
防衛出動が命ぜられれば、防衛出動手当を含めた給料が支払われます。
自衛隊の設備や装備ではどうにもならない部分は、労務や役務調達で賄うので、これにもお金がかかります。
例えば、工事用の重機車両の借り上げのような。
戦争はとにかくお金がかかります。
これを全て予備費と補正予算で賄えるのか?
戦う能力を維持するために、どの分野の支出が抑えられるのか?
その結果、国民の生活にどんな制限が出るのか?
これらを明らかにするのは、防衛省の課題というよりも政府の課題ですね。
