陸上自衛官を主体に発足した海上輸送部隊は常設統合任務部隊の布石となるのか?
陸上自衛官が9割の海上部隊
以前より計画されていた陸上自衛官を主体に構成された海上輸送部隊が発足しました。
4月8日の朝日新聞デジタルの記事によると、
輸送群は9割が陸自隊員で、1割が海自。艦長には海自の伊藤洋隆1尉が、輸送群司令には陸自の馬場公世1佐が就いた。海上輸送という陸自にとっては経験のない任務に、馬場1佐は「海自との連携が不可欠。関係部隊との連携に特に尽力している」と話した。
出典:朝日新聞デジタル「陸自が9割「海上輸送群」本格始動 輸送艦「にほんばれ」広島で公開」
とのこと。
私も白書などで部隊編成の計画があることは知っていましたが、最初に聞いた時は、思わず旧陸軍が建造した「まるゆ艇(正式名称は三式潜航輸送艇)」が頭を過ってしまい、あまり良い印象がなかったのが正直なところ。
しかし、部隊に関する記事や防衛省の発表を見る限り、かつてのような激しい組織間対立がもたらした負の産物ではないようです。
また、先日発足した常設の統合作戦司令部と紐付けて考えると、何か将来に向けた布石のようにも感じられます。

柔軟は発想と対応、資源の効率的な活用の成果
旧陸軍の「まるゆ」は、南方正面に展開する陸軍への補給をめぐり陸海軍が激しく対立し、お互いに不信感が強まった結果、陸軍が独自の補給手段を確保する目的で作られたもの。
しかも、建造すること自体も海軍には秘密にしており、その設計のみならず、運用に関しても海軍の支援を受けなかったという始末。
しかし、今回の海上輸送部隊は、編成前から陸上自衛官が海自の輸送艦で訓練を行っていることから、かつてのような組織間の対立が生み出したものではないようです。
そもそも、陸上自衛隊から海上輸送を任務とする部隊に人を差し出すこと、そして海上自衛隊でこれを受け入れ訓練すること自体、組織の垣根を超えた柔軟な発想と対応の賜物と言えるのではないでしょうか。
ご存知の通り、海上自衛隊は慢性的な人手不足。
作戦上の輸送所要が膨大だと分かっていても、そこに回せる人的資源がないのが実態。
もちろん輸送艦のような物的資源も十分ではありません。
いくら防衛費が増えたからといっても、急に海上自衛官は増えないですし、輸送艦ばかり集中的に増やすことは難しいと思います。
海上自衛隊は既存の艦艇や航空機の運用と整備、現任務の遂行とそのための訓練で手一杯だからです。。
だから、別のところから人を引き抜いて海上輸送任務に就かせ、海自に割り当てられた予算を使わずに輸送艦を建造する方策を考えなければなりません。
そうなると、海空自衛隊に比べてマンパワーがある陸上自衛隊に白羽の矢が立つことは当然と言えば当然のこと。
でも、推測ですが、陸自の中でも相当な議論があったのではないでしょうか。
「なぜ、自分たちが船乗りにならなければならないのか?」と。
船舶の調達も陸自の予算で進められたようですので(※)、反発もかなりあったと思います。
ズブの素人に艦艇の運行をゼロから教える海自側の負担も決して小さいものではなかったでしょう。
しかし、来るべき作戦上の必要性を念頭に、ロジカルに導き出した結論が、今回の海上輸送群という形になったと思います。
※世界の艦船:自衛隊新型輸送艦「にほんばれ」が進水(2024年11月25日)より

これまでは「共同の部隊」、今後は常設統合任務部隊の編成も?
陸海空自衛官が混在する部隊はこれまでもありました。
自衛隊情報保全隊や自衛隊サイバー防護隊がそれに該当します。
これらの部隊は大臣直轄。
今回の海上輸送群も共同の部隊で大臣直轄。
しかし、艦艇というアセットを持ち、それを運用するタイプの部隊は初めてで、そこがこれまでの共同の部隊との異なる点です。
そしてここからは勝手な想像ですが・・・
常設の統合作戦司令部ができたことと紐付けて、今回の海上輸送群を考えてみると、
「これは将来的に常設の統合任務部隊を編成するための布石になるのでは?」
と思ってしまいました。
他の関連する話題で、護衛艦の空母化があります。
護衛艦の「いずも」が空母化されると、そこに所属する航空部隊はおそらく空自から差し出されるでしょう。
これを別々の部隊として管理するよりも、”いずも”を中核とする空母打撃部隊のような一つのパッケージとして管理し運用する方が効率的だと思います。
もちろん、訓練も常にこのワンパッケージで行うことで、練度の維持向上も図れると思います。
また、離島奪回作戦を担う陸自の水陸機動団も、それ単体では本来の機能を発揮できないので、海空自衛隊部隊からの支援が必要となります。
これも、先ほどの空母打撃部隊のように、平時からワンパッケージにしておいた方が、運用面での実効性が上がると思います。
精神的な面では、部隊への帰属意識も高まることでしょう。
しかし、これらの部隊をいきなり常設統合任務部隊とするのは、運用の複雑性、政治的なインパクトを勘案するとややハードルが高い。
まるで日本版の海兵隊を作るようなものなので。
だから、「まずはできるところから」ということで海上輸送群、ではないのでしょうか。
そして、将来的には現在の共同の部隊も含め、空母打撃部隊、奪回作戦部隊が常設の統合任務部隊となり、統合作戦司令部の隷下となる。
ちょっと飛躍しすぎかもしれませんが、無くはない・・・
と思いませんか?
(全て筆者の勝手な想像であることを強調しておきます。)
