どう戦うべきか?を決める作戦見積〜全ての要因を検討して最良の行動方針を導き出す

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作戦見積とは?

これまで地域見積、情報見積を解説してきましたが、今回はいよいよ作戦見積について解説します。

作戦見積とは何なのか?
名前の雰囲気から、作戦を立てるための見積もりっぽい?

その通りです。
この見積の結論はそのまま作戦構想に直結します。
作戦構想って何かというと、誰が、いつ、何のために、どのようにやって目標(任務)を達成するのかを明らかにしたものです。
「目標(任務)達成」というワードでピンときた方、素晴らしいです。
そうなんです。
この手順は実は状況判断と同じ。
以前、「できるリーダーの条件:陸自のリーダーシップ 指揮官の最も重要な仕事は状況を判断して決心すること」という記事で、状況判断の手順をサラッとご紹介していますので、お時間があればそちらも参考にしてください。
(上のタイトルがそのままリンクになっています。)
今回も陸上自衛隊の教範(教科書)である「野外幕僚勤務」に沿って解説します。
この本は一般では入手できませんが、国会図書館で1968年版を閲覧することはできます。
国会図書館の利用者登録をしていれば、オンラインで自宅からも閲覧できますよ。
ちなみに、「1968年版なんて古い! 最新のメソッドが知りたい!」
と思う方もいらっしゃるかと思いますが、原則的なこと、基本的な思考過程やその内容は時代を経ても変わっていません。
というのは、教範に書かれていることは原理・原則的なことなので、根本的な部分は不変なんです。
だから安心して読んでみて、みなさんの日々のビジネスにも取り入れてみてください。

作戦見積の思考過程

作戦見積の思考過程は以下の通り。

  • 任務(第1条)
  • 状況及び行動方針(第2条)
  • 各行動方針の分析(第3条)
  • 各行動方針の比較(第4条)
  • 結論(第5条)

それでは、その内容について解説します。

任務(第1条)

ここでは、具体的に達成すべき目標を明らかにします。
これでピンときた方、素晴らしい!
そうです。
これは以前に解説した任務分析と全く同じなのです。
(その時の記事はこちら→目標の設定には任務分析〜与えられた任務から達成すべき目標を明らかにする手順(その1)
見積の一般的な順序は、任務分析→地域見積→情報見積→作戦見積なので、各見積の任務(第1条)のところは、最初にやった任務分析の結果をそのまま引用することになります。

状況及び行動方針(第2条)

ここでは、我の取り得るオプションを列挙します。
これも、ここで初めて考えるのではなく、地域見積の結果を流用します。
我が攻撃する場合の地域見積の解説の回で、以下の図が出てきました。


これを行動方針を列挙するためにアレンジしたものが下の図。


変わったところ、分かりますか?
接近経路のA-1とA-2がそれぞれ
O-1:A道沿いに攻撃
O-2:B道沿いに攻撃
に変わりました。
つまり、攻撃するためのオプションが2つあり、主力を攻撃させる方向を選ぶことになります。
(ちなみに、赤線L-1 、L-2がE-1、E-2になっていますが、これは情報見積の回で解説したように、敵が防御する場合のオプションを表しています。)

なお、ここでO-1とO-2の狙いも明らかにしておく必要があります。
これも地域見積の結論から導かれるのですが、以下のようになります。

O-1:山脚沿いに歩・砲戦力を発揮して攻撃し、着実に要点を確保しつつオ山を奪取
O-2:比較的開豁した経路より機甲戦力を持って一挙に打通してオ山を奪取

各行動方針の分析(第3条)

各行動方針を分析して、O-1とO-2の特性を明らかにします。
やり方は敵と我を戦わせてみるという、いわばシミュレーションのような感じで。
陸自ではWar Gameと言ったりします。
具体的には、

  1. O-1 VS E-1
  2. O-1 VS E-2
  3. O-2 VS E-1
  4. O-2 VS E-2

の四つの組み合わせで、攻撃準備段階、第一線陣地に対する攻撃、第一線突破以降の攻撃、攻撃目標(オ山)に対する攻撃のように、時系列でシミュレーションします。
この際、情報幕僚が敵役、我の行動は作戦幕僚が担います。
シミュレーションの内容は、以下の表形式でまとめるのが一般的です。

①O-1対E-1(抜粋)

段階   我の行動   敵の行動   問題点   処置・対策
攻撃準備攻撃準備射撃をア山、イ山一帯に行いつつ障害を処理。射撃により障害処理を妨害障害処理が遅延し、攻撃開始時刻が遅れる。障害処理間は煙覆も行い障害処理を秘匿する。

このシミュレーションを本気やると、かなり時間がかかり骨の折れる作業となります。
でも、本当に重要なところなので、敵役の情報幕僚は作戦幕僚に忖度することなく、意地悪な敵に徹しなければなりません。
このシミュレーションをしっかりやれば、それぞれの行動方針の特性が浮き彫りになります。

各行動方針の比較(第4条)

各行動方針の分析で明らかになった特性から、比較するための要因を整理し、何を重視するかを踏まえて最後の結論へと導きます。
これも表形式でまとめることが多いです。

O-1O-2部分結論重視要因
迅速な目標奪取O-2>O-1
損害の極限O-1>O-2
逆襲対処O-1>O-2

結論(第5条)

比較した結果を見て最良の行動方針を選定します。
先ほどの表では、O-1の方がマルが多かったのですが、今回は仮に「攻撃速度を重視すべき状況」ということにして、重視要因からO-2を採用することにしました。

最後に、ここで選択した行動方針に理由を添えて完成です。
以下、結論の一例。

(結論)
 O-2を採用。
 理由:迅速な攻撃により、主力の集結を掩護する為の防御準備の時間をより多く獲得できるため。

まとめ

いかがだったでしょうか。
作戦見積の結論が出れば、次は作戦計画の作成に移行します。
本当は、作戦見積の際に、兵站見積と人事見積を行い、兵站・人事面から各行動方針を評価するフェーズが入りますが、今回はシンプルに流れを理解して頂きたかったので省略しました。

もしお時間があれば、任務分析から続く一連の流れ(任務分析→地域見積→情報見積→作戦見積)を今一度確認してみて下さい。
みなさんのビジネスにどう反映できるか、きっと何か閃くことと思います!

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どう戦うべきか?を決める作戦見積〜全ての要因を検討して最良の行動方針を導き出す” に対して6件のコメントがあります。

  1. 鈴木 より:

    以前、判断事項はどうやって決めるのかを伺ったのですが、
    地域見積で判断事項を出していることがよくわかりました。
    ありがとうございます。

    実は、国会国立図書館デジタルコレクションで陸戦研究の図上戦術を読んだのことがあるのですが、チンプンカンプンでした。
    それが、任務分析→地域見積→情報見積→作戦見積の流れで、意思決定は何をやっているかがわかってきました。

    こんなにわかりやすく説明してある資料は一般人向けにはないと思います。
    記事を書いてくださってありがとうございます。

    PS 「陸自の兵法」サイトをPDFで保存しました。
      永久保存にします。

    1. militac-san より:

      鈴木様
      コメントありがとうございます。
      お役に立てて嬉しいです。
      今後は幕僚見積の思考過程を、日々のビジネスに適用する方法など書いていきたいと思います。
      引き続きよろしくお願いします。

  2. 石野 拝 より:

    拝啓

    ミリたく様

    陸上自衛隊的な考え方のサイトをずっと探しておりましたが、やっと本サイトにたどり着くことができました。
    戦術やマネージメント、世界情勢が分かりやすく説明されており、一般社会にも十分に活用できるものと考えており、私の日々の業務や同僚等にこのような仕事のやり方もあるよと、参考にさせていただいております。

    これからも、よろしくお願いいたします。

    1. militac-san より:

      石野様

      お役に立てて嬉しく思います。
      今後もビジネスに活かせるような、ミリタリーの思考やマネジメント手法については書いていきます。
      引き続き宜しくお願いします。

  3. 鈴木啓祐 より:

    お世話になっております。
    鈴木です。

    作戦計画とは、何を書けばいいのでしょうか?
    私は実際に行動するとき、シミュレーションの内容をメモした紙を見ながらやるのですが、
    どこを見ていいのかわからなくなることがあります。

    作戦計画の考え方、書く内容などを教えていただけませんか?
    よろしくお願いいたします。

    1. militac-san より:

      鈴木様
      ご質問ありがとうございます。
      作戦計画には、方針、指導要領(近接部隊の運用、火力戦闘部隊の運用など)、各部隊の任務などが記述されます。
      作成時の考え方、書くべき内容については記事にしますね。

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