自衛隊の定員不足、これからの時代に必要なのは「AI」と「業務のスリム化」
定員不足が深刻化、処遇改善だけでは追いつかない
ここ数年、防衛省や自衛隊でよく話題に上がるのが「定員不足」という課題です。
若い世代の入隊希望者が減り、思うように人員が確保できない状況が続いています。
10月22日の小泉大臣就任会見でも取り上げられていましたね。
(防衛省HP:令和7年10月22日小泉防衛大臣就任会見)
この課題への対応として、防衛省が発表した令和8年度の概算要求(防衛力の抜本的強化の進捗と予算ー令和8年度概算要求の概要)にも、処遇改善に関する項目が記載されており、給与や手当の見直し、勤務環境の改善など、さまざまな取り組みが盛り込まれています。
待遇を良くすることはもちろん大切です。
でも、それだけで人手不足が解消されるわけではありません。
背景には、避けることのできない「少子高齢化」という大きな流れがあるからです。
若い世代そのものが減っていく中で、どれだけ条件を良くしても、自衛官になりたい人の“母数”が小さくなれば、今の定員を維持するのは現実的に難しくなっていくでしょう。
だからこそ、これからの自衛隊には「少ない人数でも力を発揮できる仕組み」をつくることが求められているのだと思います。
そのカギのひとつになりそうなのが、防衛省の各種施策の中で度々出てくる「AIの活用」です。
AIで支える新しい自衛隊――補給・事務・教育の効率化
防衛省の概算要求を見ると、どうしても無人アセットとか、次期戦闘機といった派手な項目に目が行きがちですが、AIを活かして業務の効率化を図る方針もしっかり書かれています。
概算要求には、補給業務、事務処理業務、教官業務といった分野の効率化について記載があります。
これらは、一見地味に思えるかもしれませんが、部隊の運営を支える重要な仕事です。
たとえば、被服や燃料のような補給データの管理、訓練計画の作成、教育カリキュラムの準備など、現場では膨大な量の作業が発生しています。
こうした仕事には、実は多くの人が関わっています。
師団司令部や方面総監部では、幹部であれば1尉や3佐、陸曹であれば2曹から曹長といった中堅クラスが数多く勤務しています。
さらに、市ヶ谷の陸上幕僚監部(陸幕)になると、3佐や2佐といった上級幹部が多数配置されています。
どれも、部隊を動かす要となる層です。
しかし現実には、そうした人たちが訓練や指導ではなく、資料作成や各種調整などのデスクワークに追われる時間が少なくありません。
AIがこれらの業務を支援してくれれば、一部のポストを削減して部隊側に人を振り替えることもできるかもしれません。
そして、結果的に、現場の充足率を高める方向につながるかも可能性もあると考えます。
AIだけでなく「仕事を減らす」改革も必要
AIによってできることは多岐にわたりますが、導入するだけで劇的に変わるわけではありません。
そもそも「業務そのものを減らす」努力も欠かせません。
昔から自衛隊では、保全検査、訓練管理点検、補給整備検査など、さまざまな検査が行われてきました。
そこで何か不備が見つかると、「次に同じことを起こさないように」と新しい施策やチェック項目が加わります。
その積み重ねが長年続いた結果、規則や手順が増えすぎて、現場では書類づくりや報告に追われることも珍しくありませんでした。
中央や司令部の担当者たちは、もちろん部隊のためにと一生懸命さまざまな施策を考えています。
ただ、そもそも司令部などの仕組みが縦割り、いわば「ストーブパイプ」のような状態なので、各部署がそれぞれの施策の実行を部隊に要求した結果、部隊でのデスクワークが増え、司令部側の業務も膨らみ、どこも常に人が足りない──そんな悪循環が生まれてしまうのです。
だからこそ、AIによる効率化とあわせて、業務のスリム化を進めていくことが大切だと思います。
限られた人員で最大の成果を上げるために、「人がやらなくてもいい仕事」を減らし、「人にしかできない仕事」に集中できる環境を整える。
そんな発想の転換が、これからの防衛省・自衛隊には必要になるだろうと思います。
