ニュース解説:ロシア海軍の「モスクワ」沈没が陸上での戦闘に及ぼす影響は?

ウクライナ軍の対艦ミサイルで撃沈

日本でもすでに報道されたことではありますが、ロシア海軍の黒海艦隊の旗艦「モスクワ」が、ウクライナ軍の対艦ミサイルによる攻撃により沈没しました。
4月15日付のBBCのホームページでは、以下のように報じています。

Moskva, the flagship of Russia's Black Sea Fleet, was being towed to port when "stormy seas" caused it to sink, according to a ministry message.
The 510-crew missile cruiser was a symbol of Russia's military power, leading its naval assault on Ukraine.
Kyiv says its missiles hit the warship. The United States says it also believes it was hit by Ukrainian missiles.
"黒海艦隊の旗艦、モスクワは嵐の中を港に向かって曳航中に沈没”
"キーウ(ウクライナ政府)はミサイルが命中したと発表"

出典:Russian warship: Moskva sinks in Black Sea

沈没から10日以上経った現在では、ウクライ軍の地対艦ミサイル「ネプチューン」2発が命中して沈没したことが、事実として認識されています。
ところで、今回の戦争において、黒海艦隊の役割は何でしょうか。
今のところ、黒海において、ウクライナ海軍との間で海上戦闘は行われているとの報道はありません。
ということは、海上優勢(現在は「制海権」と言いません)はロシアが獲得していると見るのが妥当でしょう。
その中において、黒海艦隊は、砲撃や巡航ミサイル攻撃で、陸上作戦を支援することが主な役割であると推測されます。

「モスクワ」の役割

今回ウクライナ軍が撃沈したミサイル巡洋艦「モスクワ」は、全長約184m、排水量が約1万2500トン程度。
これは海上自衛隊の護衛艦「ひゅうが」よりもやや小ぶりなサイズ。
装備としては、対艦ミサイルと対空ミサイルの他、130mm速射砲が搭載されていました。
でも、この艦艇の最も重要なポイントは、黒海艦隊の旗艦であったということ。
旗艦とは、海上における司令部の役割を担う艦艇であり、艦隊司令官と、これを支える幕僚組織が乗艦しており、情報集約と指揮中枢としての機能を持っています。
つまり、モスクワは黒海艦隊を率いて、この戦争の海上作戦を指揮をしていたということになります。

陸上の戦闘に及ぼす影響

モスクワが沈没したことによる作戦上のインパクトについて、BBCの記事では以下のように書かれています。

”Russian ships will now be forced to move further from the Ukrainian shore, where they can no longer feel secure.”
The Moskva didn't itself fire missiles at Ukrainian land targets, but military experts told the BBC that it offered crucial support to other vessels that did.(略)The remaining vessels in Russia's Black Sea fleet will now be more vulnerable to aerial attacks.
While smaller vessels were conducting bombardments of Ukrainian cities, the Moskva was providing them with wide-area air cover.
”ロシアの艦艇は沿岸部から遠ざかることを余儀なくされた”
”モスクワそのものに地上目標を攻撃する能力はなかったが、他の艦艇に対する重要な支援(防空)を行なっていた(略)。残された艦艇は空中からの攻撃に脆弱となる”
”小型の艦艇がウクライナの都市を砲撃している間、モスクワは広域のエアカバーを提供していた”

出典:Russian warship: Moskva sinks in Black Sea

記事を読む限り、「有効なエアカバーを失ったため、海上からの砲撃が難しくなる」と言えそうです。
しかし、モスクワを喪失したことによる影響は、エアカバーを失くすことだけではないと思います。
旗艦という海上作戦の司令部は、集約された情報をもとに、戦力配分、火力配分を現地で指揮していたはずです。
この機能を失った場合、各艦艇がはそれぞれの判断で目標を設定して対地攻撃を行うことになります。
つまり、組織的な火力の発揮ができず、有効な打撃を加えることが困難となります。
無駄な弾薬を節約するため、次の旗艦が指定されるまで対地攻撃を控える可能性もあります。
これが旗艦を失ったことによる、地上戦闘に及ぼす一番大きな影響だと思います。
皆さんの参考になれば。

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