ニュース解説:ロシアが30万人の予備役を動員〜予備役の戦力化は簡単ではない!
ロシアが予備役を30万人動員
ロシアが9月21日、予備役30万人の動員を発表しました。
そして同月28日付のロイターのニュースで、「動員された予備役の訓練が開始された」と報じました。
ロシア国防省は28日、バルト海沿岸にある飛び地カリーニングラードで新たに動員された予備役がロシア軍バルチック艦隊の基地で戦闘訓練を開始したと発表した。(略)「動員された全ての兵士は小火器の射撃で基準に従っている。さらに予備役から招集された市民が兵器や軍事機器・特殊機器の操作・保守技術を回復している」と表明。
出典:ロシアの予備役、カリーニングラードで戦闘訓練開始
ロシアのショイグ国防相によると、招集されたのは60歳以上の退官者を含む「特殊技能」を持つ人たちで、「彼らを前線に送り込むことはない」とのこと。
一方で、「前線を守るためには追加の部隊が必要」との発言もありました。
では、今回動員される予備役はどのように使われるのでしょうか。
予備役の戦力化
自衛隊の場合
予備役の能力は、それぞれの国の軍の教育訓練のシステムによって異なります。
僕は現役自衛官の頃、即応予備自衛官の招集訓練にちょっとだけ携わったことがあります。
即応予備自衛官は、年間30日の訓練を受ける人たちで、普通科部隊(歩兵の部隊)の隊員として随時行動できるレベルに練度が維持されています。
ただし、「できる」程度であり、当然のことながらその能力や練度は現役自衛官には及びません。
なので、彼らが本当に招集された際には、戦力化するための追加の訓練※が必要になるのが普通です。
(※災害派遣時の給食支援など、部隊行動がそれほど必要でない場合はすぐに戦力となりますが。)
自衛隊にはこのほかにも、年間5日間の招集訓練を受ける予備自衛官もいます。
しかし、彼らは「隊員として最低限のことを知っている、できる」というレベルであり、部隊行動に適応できるまでには相当の訓練が必要になります。
予備役を戦力化するために
今回、ロシアで動員された人の中には、除隊間もない人もいたり、空挺部隊という精鋭部隊での従軍経験のある人もいるようです。
彼ら個人個人を一戦闘員として戦力化することは、さほど難しくはないでしょう。
しかし、部隊行動に適応させるにはやはり時間がかかると思います。
例えて言えば、昔2年ほどサッカーをやったことある人数名が、ある日突然チームに加入しても、セットプレーなどの連携プレーがすぐに機能しないのと同じです。
もし、チームの全員が久しぶりにプレーする「寄せ集め」の集団であれば、普通のチームと互角に戦うことは期待できないでしょう。
部隊行動もこれと同じ。
個人の技量も大事ですが、何よりもチームワークや相互の信頼関係が必要です。
日本の即応予備自衛官は、所属する部隊が指定されており、毎回同じ部隊で招集訓練を受けるため、お互いの顔を知った者同士が、いざという時に一緒に行動するようになります。
なので、チームワークや信頼関係の基礎はあるので、単なる寄せ集めよりは戦力化が容易と言っていいでしょう。
ロシアに同じような予備役制度があるかは分かりませんが、ニュース映像や報道内容、ロシア政府の発表を見る限り、寄せ集め感は否めません。
組織的な戦闘任務に従事することは難しいように思います。
ショイグ国防相の「前線に送り込むことはない」という発言は、「前線に送り込んでも役に立たない」と読み替えることができそうです。
今後の注目点
とはいえ、第一線部隊の戦力が厳しい状況にあるロシア軍は、招集した予備役を前線に送ると思われます。
最初は後方地域で兵站部隊の一員として活動するかもしれませんが、いずれ第一線へ。
こうなると、受け取った部隊にとっても悲劇ですね。
映画「プラトーン」で、召集兵を受け入れるベテラン兵士の反応が描かれていますが、彼らにとっても「足を引っ張られてたくない」が本音でしょう。
かつての戦争では、大量に集めた召集兵を、とにかく小銃片手に突っ込ませるという、数にものを言わせるような戦い方が成立した時代もありました。
しかし、今のウクライナ戦争でこれが通用するのかは疑問です。
そもそも、ウクライナ軍は質が勝るのはもちろんのこと、報道を見る限り、組織的な戦闘が成り立つほどの数も維持しているようです。
ロシアが予備役をどう運用し、そして戦局にどの程度の影響をもたらすのか。
また、一般国民を戦争に巻き込んだら、国民の意識はどう変わるのか?
そこらへんも含めて要注目です。
2022.10.6追記
5日の報道によると、9月27日に召集された予備役の一部が、すでに第一線に投入されているとのこと。
もしこれが事実であるとすれば、ロシア軍の戦力は相当厳しい状況にあると言えます。
今回前線に投入された予備役は、退役間もない人か、地上レーダーのような電子機器類の操作など、特殊な技能を備えた人であると考えられますが、彼らによって劣勢を挽回できるとは到底思えません。
核という禁断の一手を打たないのであれば、予備役の招集規模をさらに拡大することで、量的優位を維持しつつ飽和攻撃(ローテクであっても、相手が対応できないほどの膨大な物量や兵員数で攻撃すること)を行い、「勝っていないけど、負けともいない」という状況に持ち込んでこれを維持し、お互い疲れが見え始めたところで「現状維持」で停戦へと持って行きたいのかもしれません。