軍事用語解説:「制空権」とは言わなくなった?最近の主流は「航空優勢」です
ニュース解説で「制空権」と言うけれど
先日、ウクライナ情勢に関するニュースを見ていたら、海外の軍事専門家が英語で解説している字幕に「ウクライナは東部での制空権を失ったので、攻勢作戦に失敗した」とありました。
このニュースでは、日本のコメンテーターもしきりに「制空権」という言葉を使っていましたが、「う〜ん、現状からその言葉はどうなのかな?」と思ってしまいました。
私が引っかかったのは、この記事のタイトルにもある「制空権」。
英語ではAir SupremacyまたはAir Superiorityと言います。
でも、最近の戦争において、よっぽどではない限り「制空権」という用語は使われないと認識しています。
ちなみに、防衛白書では、制空権ではなく「航空優勢」と記述されているのがほとんど。
それはなぜでしょうか?
そもそも航空戦の様相は?
現代の戦争における航空戦はどのような様相なのか?というところから解説したいと思います。
航空戦は文字通り、航空戦力同士による戦いで、その主体は戦闘機などの航空機です。
その航空機で作戦を遂行するためには、目標となる空域まで進出する必要があります。
特に多目的戦闘機で対地攻撃を行う場合は、相手の対空兵器を封じ込め、さらに戦闘機によるエアカバーを排除しなければなりません。
もし、相手の防空戦力(戦闘機も含みます)を完全に叩き潰し、こちらの作戦機がいつでも自由に飛び回ることが保証されていれば、その状態を「制空権を保持している」と言ってもよいでしょう。
例えば、太平洋戦争末期、米軍機が何ら妨害を受けることなく、日本本土の建物や列車に機銃掃射するガンカメラ映像がありますが、あのような状態がまさに制空権を保持した状態でしょう。
当時の日本軍は航空機を飛ばすための燃料がなく、また、既存の航空機の整備するための部品、機材もほとんどないような状態で、対空火器も十分な弾薬がなかったために、米軍機は護衛なしでも自由に日本上空を飛ぶことができたのです。
一方、現在のウクライナはどうでしょうか?
まだ戦闘機は保有していますし、時折、対空火器でロシア軍機を撃墜したとの報道もあります。
つまり、東部で局地的にロシア軍の航空戦力が「優勢」な状態、と見るのが妥当のような気がします。
空を常時支配できないから「航空優勢」
敵味方の双方が一定の航空戦力を保持している場合、一時的に対空火器などが制圧され、その間に航空攻撃を受けたとすれば、それは相手が「航空優勢を保持していたから」と言えるでしょう。
そもそも、航空戦では、空中に戦闘機などのアセットがいる間は優勢ですが、基地に帰投するなどして戦場の空域が空(から)の状態になれば、その間はこちらの航空機でCAP(Combat air patrol:戦闘空中哨戒)を行うこともできます。
つまり、常にアセットを空中に配置することはできず、瞬間瞬間で空域を支配しているものが変わるのが最近の戦争の傾向であり、それゆえ「航空優勢」という用語を使う方が適切だと思うのです。
もちろん、アフガニスタンでの作戦のように、相手が飛ばすべき航空戦力を保持していない場合は、制空権と言って差し支えありませんが、今回のウクライナ戦争の場合は、「航空優勢」が当てはまるでしょう。
ちなみに、冒頭で引き合いに出した番組内で、海外の軍事専門家は「Air Superiority」と明確に言っていました。
これは制空権、航空優勢のどちらとも取れる用語ですが、NATOや米軍では「航空優勢」を表現する際に使うので、解説していた軍事専門家がNATO加盟国の方だったことを考えると、彼は「航空優勢」と言いたかったのでしょう。
以上、軍事に関心のある方のご参考になれば幸いです。