陸自の戦術:防御編(その2)守るだけじゃなく攻撃することも? 防御の方式と計画の立て方
陸自の戦術の中で、防御を解説するシリーズの第2回目。
前回は防御の定義や、重要な9つの項目について解説ましたが(前回の記事はこちら→「陸自の戦術:防御編(その1)防御の定義と重要な9つの要素」)、この回では、防御の方式や計画の立て方などについて解説します。
今回も、陸上自衛隊の教範(教科書)である野外令の記述に沿って解説します。
この本は一般には販売されていませんが、国会図書館で昭和43年版を閲覧することはできます。
目次
「防御=穴を掘って待ち構える」だけじゃない
一般的に軍事行動における「防御」という言葉を聞いて、真っ先に思いつくのが、スコップでひたすら穴を掘り、その中に身を隠しながら攻撃してくる相手に射撃する、というものではないでしょうか。
それは間違いではありません。
これは「陣地防御」というもので、防御の方式の一つです。
でも、それだけではありません。
機動打撃(防御する側が行う攻撃)によって目的を達成する方法もあります。
どちらも「待ち受けの利」によって、相手の攻撃を破砕するので、防御の定義に当てはまります。
それでは、陣地防御から見ていきましょう。
陣地における阻止火力が中心の陣地防御
自衛隊用語は難しい言い回しが多いのですが、要は「陣地からの射撃で相手を止める」ということです。
この方式は、少ない勢力を地形で補える場合に選択します。
また、防御部隊の編成が、歩兵が主体で戦車や装甲車が少ないといった、固定的な戦い方に向いている場合も、この方式を選択することになります。
機動しながら(走り回りながら)の戦い方は、相手に身をさらけ出す時間も長くなるので、装甲防護力が必要になってきますので。
陣地防御のイメージは下図を参考にして下さい。
陣地防御は地形を最大限に活用できるのが利点ですが、掘った穴に依存するような戦い方になるので、部隊運用の融通性があまりなく、また、陣地の位置がある程度想像つくことから、相手を奇襲できる可能性も低くなるという不利点があります。
機動打撃で相手を撃破する機動防御
まず、「機動打撃って何?」だと思います。
機動という言葉が示すように、こちらから相手にアプローチし、火力で打撃を加えるという主動的な行動です。
「あれ、防御じゃなくて攻撃?」
そんな印象を持ったかもしれませんが、正解です。
定義としては
機動打撃に主体を置き、敵を撃破して防御の目的を達成する
です。
この「敵を撃破」する行動は、まさに攻撃そのもの。
とは言え、相手よりも勢力は少ないので、相手を不利な状況に陥れるよう、状況を作為しなければなりません。
イメージは下図の通りです。
機動防御は、攻撃側からしてみると、受け身だと思っていた相手が攻撃してくるので、奇襲の効果はかなり高くなります。
でも、相手も自分も動いているので、陣地防御に比べてどうしても難しさがあるのは事実。
陣地という殻から飛び出して行動するので、空から攻撃されたらアウトですね。
また、こちらが攻撃を仕掛ける場面で、戦闘力が相手よりも上でないと成功しません。
なので、相手の戦力を先細りにさせつつこちらの有利な場所に誘導し、タイミングよく攻撃を仕掛けることが、機動防御成功の鍵となります。
計画の立て方
まずは守るべき地域と守り方を決める
「どこを守るべきか?」をまず考えます。
こちらにとっても相手にとっても一番価値のある場所を選定し、そこを中心に防御する地域を決定します。
防御する地域の広さは、自分の能力、準備できる時間、防御する期間によって変わってきます。
防御する地域が決まったら、次に「陣地防御と機動防御のどちらが最適か?」を考えますが、その時に大事なのは、相手の能力についてしっかり情報収集し、こちらの能力と比べることです。
例えば、相手は戦車や装甲車を持った部隊が中心で、こちらが歩兵中心の場合、相手の方が動きながら戦う能力が遥かに高いので、「機動防御」という選択肢はなくなります。
陣地の編成、戦力配分などについて考える
一番強く守る必要がある場所を主体に、陣地をどう並べるか、そこにどれだけの戦力を配分していくか、を考えます。
通常は、相手の主力と一番最初に接触する場所(第一線)を最も強く守ります。
そして万が一、第一線が抜かれても、陣内でも戦えるように障害を構成したり、障害と連動する火力を準備したりします。
さらに、「この場所を早々に奪られてしまったら防御が成り立たない」と思う場所に対して、陣地を奪還する逆襲を仕掛けるかどうかも決めておきます。
以上が、防御の計画を立てる時のざっくりした流れです。
逆襲は大事だけど難しい
逆襲は奪られた陣地を取り戻すために、防御している側が行う攻撃です。
一見、簡単そうですが、これが実に難しい。
まず、逆襲を行うタイミングですが、陣地を完全に奪られた後だと、相手も迎え撃つ態勢が出来上がってしまっているので、失敗してしまう可能性が高くなります。
防御は相手よりも勢力が少ないのが普通なので、ここで逆襲部隊がやられてしまうと、ますます劣勢になってしまいますね。
だから、確実に成功するタイミングを予め見積もっておく必要があります。
また、「相手が間も無く陣地を奪る」というタイミングだと、生き残った味方がまだ戦っている可能性もありますね。
味方同士で撃ち合いにならないよう、事前に打ち合わせやリハーサルをしっかり行っておくことが不可欠となります。
まとめ
防御は単に穴を掘って戦うだけではなく、こちらから攻撃を仕掛けることもあります。
いずれも「待ち受けの利」を発揮して主動的に戦うことがポイント。
受け身ではダメです。
しかし、闇雲に積極的でも戦力を早々に消耗してしまうので、「ここぞ!」というタイミングと場所を予め設定し、有利な態勢を取れるように作為しておくことが防御成功の要です。