ドイツがウクライナに供与した対空戦闘車は戦力としては期待できない? 今後の活用方法に要注目!
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ドイツがウクライナに約50両のゲパルトを供与
既に日本語メディアでも報じられていますが、ドイツはウクライナに対し、約50両の対空戦闘車、通称”ゲパルト”の供与を決定しました。
以下、DefenceNewsの抜粋。
The German government will send Ukraine around 50 Gepard air-defense tanks to help that country repel Russian attacks.(略)The vehicles, made by Krauss-Maffei Wegmann, are no longer in the inventory of the German armed forces, but the manufacturer has kept a number in its own stocks.
出典:Germany sending ‘Gepard’ air-defense tanks to support Ukraine defense
”ドイツ政府は(ウクライナが)ロシアの攻撃を撃退することを支援するため、約50両のゲパルト防空戦車をウクライナに送ることを決定した”
”その車両はKMW製で、現在ドイツ連邦軍では運用されていないが製造元がストックしていた”
記事にある通り、ドイツ連邦軍では現在使われていない装備品です。
その理由について、ドイツ国営のDeutsch Wellでは次のように説明しています。
The German army has taken them out of use almost a decade ago, not because they were obsolete, but because at that time the Bundeswehr was scaling down and they had no use for it anymore.
”ドイツ連邦軍では、これ(ゲパルト)は10年ほど前から使われていないが、それは(ゲパルトが)時代遅れだということではなく、当時ドイツ連邦軍は縮小に取り組んでいたからだ”
出典:Germany will deliver anti-aircraft tanks to Ukraine
確かに、10年ほど前にドイツ連邦軍は縮小・改編の真っ只中にあったのは事実です。
しかし、運用数がゼロになったということは、やはり「現代の戦い方には適合しない」という判断があったのではないでしょうか。
いくら軍の縮小が至上命題であったとしても、本当に必要なものであれば、最低限の運用単位を部隊の中に維持していたはずです。
そもそもゲパルトってどんな装備?
ゲパルトは東西冷戦中の1965年に開発が始まり、1973年に装備化されました。
当時は戦車部隊を中心とする戦い方で、ゲパルトはこの移動速度の速い部隊に随伴し、エアカバーをかけることを目的に開発されました。
日本でも87式自走高射機関砲(通称”87AW”)がありますが、装備されているのは機甲師団である第7師団と、戦車連隊を有する第2師団のみです。
火力は35mm対空機関砲を2門装備し、レーダーによる自動追尾機能もあります。
射程は3,500mで、弾薬は対空用の徹甲弾とりゅう弾の発射が可能なほか、対ミサイル用の徹甲弾も発射可能です。
もちろん、これらの弾薬を地上目標に対して発射することもできます。
短い射程、遅い初速
開発された当時は、攻撃ヘリコプターが搭載する対戦車ミサイルの射程は短く、また、航空機は地表まで近づいて目標を確認し、爆弾を投下するCAS(Close Air Support:近接航空支援)が主流でした。
このため、3,500m程度の射程でも十分だったと思われます。
しかし、現代のヘリコプターから発射される対戦車ミサイルの射程は延伸し、航空機による対地攻撃は、遠距離から発射する巡航ミサイルによるものがほとんど。
3,500m程度の射程では、とても太刀打ちできません。
また、徹甲弾は初速が1,440m/sで、弾頭重量が375g。
ちなみに戦車砲の徹甲弾は初速1,500m/s以上、弾頭重量が6kg以上。
戦車砲とは口径が異なるので一概に比較することはできませんが、それでも初速は遅く弾頭重量も軽いので、戦車の正面装甲を貫徹する運動エネルギーはないと言えるでしょう。
そもそも、「地上目標も射撃できます」程度のものなので、FCS(Fire Control System:射撃統制装置)も対地向けには作られておらず、命中精度も過度に期待できないところです。
改修して対空ミサイルを搭載
上で書いたように、現代戦では対空目標は射程外となってしまうので、ゲパルトはスティンガーと呼ばれる対空ミサイルを2発搭載できるように改修されています。
このスティンガーは陸上自衛隊にも装備されており、肩撃ちタイプで個人携行もできる火器です。
ネット情報によると、射程は8,000mで、目視で目標を確認して発射した後は操作不要(自動追尾)なので、35mm機関砲に比べて有効だと言えます。
無用の長物で現代戦では役に立たない?
防空能力も対機甲能力も中途半端なゲパルト。
対ミサイル弾もあるとは言え、巡航ミサイルに対しては、射撃できる機会がミサイルが着弾する僅か数秒前と限定されるので、ほぼ期待できません。
使い道としては、ドローン対処か対装甲車といったところでしょうか。
でも、小型のドローンをレーダーで捉えることができるのかは疑問が残るところ。
こうやって考えると、50両近く供与されても「あまり役に立たないのでは?」と思ってしまいます。
それどころか、稼働させるための燃料の確保や整備など兵站所要が大きく、操作に慣熟するための訓練など、ウクライナにとってはかえって負担になってしまうのではないでしょうか?
活路を見出せるか要注目!
不要と言われた装備が、何かの拍子に復権することがあります。
その代表格は戦車ですね。
中東戦争の時代に携帯式対戦車ミサイル「サガー」が登場した際、「もう戦車は役に立たない」といった戦車不要論が囁かれていました。
それ以外にも、トップアタック型の対戦車兵器、精密誘導型のミサイルが登場したときにも、「戦車は不要」という声が湧き上がりましたが、複合装甲のような「対抗手段」という機能追加や、市街地での運用上の有効性を示すことで、「陸戦の主役ではないが不要でもない」という地位を築いたと思います。
今回のゲパルトは、機能追加はないかも知れませんが、運用を工夫することで活路を見出すかも知れません。
どのような場面で活躍するのか、要注目です。