ニュース解説:「情報」が巡洋艦モスクワを撃沈〜卓越した情報収集能力以外にも大事なことがある

この記事はアフィリエイト広告を利用しています。

米国がウクライナに情報提供

5月7日付のBBCのwebサイトに、「米国がウクライナに提供した情報により巡洋艦モスクワは沈没」と言う記事が掲載されていました。
以下、その抜粋です。

Unnamed officials said Ukraine had asked the US about a ship sailing to the south of Odesa. 
The US said it was the Moskva and helped confirm its location. Ukraine then struck it with two missiles.

Moskva sinking: US gave intelligence that helped Ukraine sink Russian cruiser - reports

記事によると、ウクライナが米国に対して、オデーサ南部に停泊中の艦船について問い合わせたところ、「(ミサイル巡洋艦)モスクワである」として、その位置の特定を助けたことにより撃沈できたとされています。

同じ記事の中で、ロシア軍高官の戦死についても触れています(米側は情報提供を否定していますが)が、これらによらず、個人的にはロシア軍の動きはウクライナ側に筒抜けのような印象があります。
その要因として、米国などの優れた情報収集能力を持つ国が収集した情報を、ウクライナに適時に提供していることが考えられます。
しかし、それだけが決め手ではありません。
卓越した情報収集能力を活かすための大事な要素があります。

優れた情報収集能力〜宇宙からの情報収集

最近の情報収集手段の中で注目すべきは、画像衛星を使った宇宙からの情報収集です。
ニュースを見ていても、ウクライナ情勢を伝える映像に、衛星画像が使われていることに気づいている方もいるかと思います。
特に、米国のマクサー・テクノロジーズ社の衛星が捉えた写真は、報道機関にも提供されているようで、写真の隅に「MAXAR社提供」の文字を見かけることもあります。
この会社を調べてみると、WorldViewシリーズと言う地表を撮影できる衛星を保有しており、その解像度は30cmとありました。
つまり、宇宙から地上にある30cmの大きさの物体を識別できると言うことです。
これであれば、海上にある艦艇の種類を識別できそうですね。
また、運用機数は4機で、1機で1日あたり680,000㎢以上の撮影が可能とのこと。
これを東京ドームに換算すると、なんと約14,543,899個分に相当します。
ちなみに東京都の面積が2,194㎢なので、天候が良ければ東京都全域を余裕でカバーできてしまう優れものです。
ただし、この面積を一度に撮影できるわけではなく、1回あたり幅13km、長さ360kmの帯状になってしまい、また、周期も90分に1回であることから、自由自在に広域をカバーできると言うものではなさそうです。
参考にしたサイトのリンクを貼っておきますので、興味のある方はそちらでご確認下さい。

【参考リンク】
日本スペースイメージング株式会社ホームページ
一般社団法人リモート・センシング技術センター
eoPortal Directory

論理的な情報見積があってこそ

画像衛星は地上の状況を可視化する上で、確かに優れたツールではありますが、上記の通り、どこでも自在に撮れるものではありません。
闇雲に撮影するのではなく、狙いを持って撮影しなければ、期待した成果は得られないということです。
では、人工衛星というハイスペックな情報収集手段を有効に活用するためには、何が必要となるのでしょうか?
それは、倫理的な思考に基づく情報見積です。
情報見積という言葉に馴染みがない方もいるかと思いますが、これは陸上自衛隊が作戦計画を立てる際に行う、敵に関する分析の一つで、相手の政策的・戦略的な狙い、軍事作戦上の目的を検討し、既に把握している兆候や、戦術的な妥当性から敵部隊の予想行動(これを「敵の可能行動」と言います)を見積もるものです。
陸自の場合、この見積結果に基づいて偵察部隊や航空部隊で敵情の偵察を行い、その裏付けを取ります。
今般のウクライナ戦争では、米国などの画像衛星を保有する国は、それぞれの情報見積に基づき、ロシア軍の何らかの活動が見込まれる地域を特定して撮影しているものと思われます。
冒頭の巡洋艦モスクワの場合、以下の見積と裏取りプロセスがあったと推測します。

  • ロシア軍の地上作戦に関する見積り
  • 米国とウクライナは、ロシア軍の地上作戦とこれを支援する海上作戦に関して見積りを実施
  • 海上作戦の実行するための黒海艦隊の行動を推察(米国はこれに基づき衛星から撮影)
  • ウクライナ軍のレーダー情報から推測される各艦艇の細部位置を把握
  • ウクライナは情報見積の結論とレーダー情報から「モスクワ」らしき艦艇を特定
  • 米国に対して人工衛星が捉えた画像情報との照合を依頼
  • 巡洋艦「モスクワ」であることを特定して攻撃

ちなみに、当然のことながら敵の行動は常に見積り通りとは限りません。
衛星画像で見ると予期したもが写っていない、または様々な手段で偵察した結果、「敵がそこにいなかった」ということも十分あり得ます。
しかし、これは単に「予想を外した」ということではなく、「否定兆候」と言って重要な情報になります。
論理的に導いた結果と違った理由を検討し、新たな仮説を立てて改めて敵情を確認することで、見積りの精度は更に高まっていくのです。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です