ニュース解説:ウクライナが反転攻勢に〜戦術的な視点から見るウクライナ情勢 

ウクライナ軍が反転攻勢

最近、ウクライナ情勢に関するニュースで「攻勢」という言葉をよく目にします。
以下、4月2日のニュース記事の引用です。

 ロシア軍によるウクライナ侵攻で、英国防省は2日、ウクライナ軍が首都キーウ(キエフ)郊外で反転攻勢を継続しているとの分析を明らかにした。北東部ハリコフでも激しい戦闘の末、ウクライナ軍が重要なルートを確保したとしている。(中略)また、ウクライナ国営通信は2日、ウクライナ軍が北部チェルニヒウから19キロの村をロシア軍から奪い返したと報じた。

出典:ウクライナ、首都郊外で攻勢継続 包囲下マリウポリから3000人脱出

この記事から、ウクライナ軍の作戦としては、「攻勢作戦に移行した」と言えるかと思います。

攻勢作戦とは

「攻勢」という言葉の響きから、何となく攻撃が主体の作戦をイメージするかと思いますが、これは正しいです。
陸上自衛隊の戦術教範である野外令によると、攻勢作戦は「敵を求めてこれを撃破しようとする積極的な作戦」で、「数次の攻撃が主体」とされています。
「攻撃が主体」ということなので、戦術行動には攻撃以外も含まれます。
例えば、敵からの攻撃に弱い翼側はしっかり防御で固めた上で、敵の弱点に対して連続的に攻撃を行うなど、一部に防御を取り入れたりもします。
攻勢作戦は、能動的に敵に決戦を強要することができるので、敵部隊を撃破又は地域を占領するために最適な作戦と言えるでしょう。

ウクライナ軍の作戦目的

4月3日に以下のような報道がありました。

ウクライナ政府は2日、ロシア軍との攻防が続いた首都キーウ(キエフ)を含むキーウ州の「全域が侵略者から解放された」と発表した。(中略)英国防省の2日の分析では、第2の都市、東部ハリコフ周辺でも、ウクライナ軍が激しい戦闘の結果、主要道路を確保した。

出典:ウクライナ「キーウ州全域解放」

先ほど引用した記事と同じく、地域の回復と主要道路などの要点確保が報じられています。
このことから、今のウクライナ軍は、国内の都市を占領してたロシア軍を追い出し、失地を回復させることを目的に作戦を行っていると考えられます。
このまま順調にいけば、ウクライナ領内全域からロシア軍を追い出せそうに見えますが、戦術的な視点から見ると、それはちょっと難しいように感じます。

ウクライナ軍の攻撃は「限定目標の攻撃」?

ウクライナ軍の戦術行動は「攻撃」が主体です。
以前の記事で戦術的な意味での「攻撃」について解説しましたが(→その時の記事はこちら「陸自の戦術:攻撃編(その1)ただ闇雲に突進してはダメ 攻撃の定義と7つの要素」)、攻撃の主眼は、「敵を戦場に捕捉してこれを撃滅すること」でした。
つまり、こちらが決めた土俵の中で敵を撃滅することを狙いとし、土俵を飛び出して逃げようとする敵部隊があれば、「追撃」を躊躇なく行なって、速やかに捕捉・撃滅しなければなりません。
また、攻撃の要則の中でも、「地域目標の奪取だけではなく、その戦果を拡張して徹底的に敵に打撃を与えること」とされています。
戦える状態の敵部隊を取り逃してしまうと、再編成や再補給などで戦力を回復させ、再び攻撃を仕掛けてくるかも知れません。
だから、敵の撃滅(戦えない状態にすること)がこれほどにまでに重視されているのだと思います。

報道を見る限りは、占領された地域の回復以降、後退(又は再配置)するロシア軍に対する攻撃を続けていることは読み取れません。
むしろ、その地域内に留まっているような印象を受けます。
では、ウクライナ軍の行った一連の攻撃は「不完全なものであった」ということでしょうか?
僕は戦術の視点から「限定目標の攻撃を行なったのでは?」と考えます。
この「限定目標の攻撃」とは、攻撃の究極の目的である「敵部隊の撃滅」を直接の狙いとはせず、達成すべき目標を自主的に限定して所望の成果を得るというもので、通常は威力偵察(敵に攻撃を加えてその反応を見ることで、敵の勢力や配置などを解明するもの)や、敵を牽制・抑留する場合などに行います。
今回のウクライナ軍による攻撃は、「占領された地域の回復」に目標を限定したものと考えれば、今の状況と合致しますね。
ちなみに、限定目標の攻撃を選択した背景ですが、局所においてウクライナ軍が優勢であっても、全般的な相対戦闘力としては、ウクライナ軍がどうしても劣ってしまい、敵の撃滅を追及すると、さらに戦力を損耗してしまう恐れがあったからかも知れません。
いずれにせよ、ロシア軍は再編成や再補給を行えば、再び攻撃できる状況にあると見るのが妥当な気がします。
もしそうなった場合、ロシア軍とはウクライナ領内で対峙する状況が継続し、最悪、取り戻した地域をまたロシア軍に奪われてしまう、ということが起きてしまうかも知れません。
今後の両軍の動きに注目です。

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