宮古島での陸自ヘリコプター航空事故〜奇想天外な事故原因の憶測の中で接待飛行は絶対にないと思う理由

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事故原因に関する憶測

もうすでにかなりの報道があり、最近では顕著な動きが少ないためか、あまりニュースになることはありませんが、4月6日、陸上自衛隊の第8飛行隊所属のヘリコプターが墜落し、6名が死亡、4名が行方不明という痛ましい事故がありました。
まずは亡くなった6名の方のご冥福をお祈りするとともに、残る4名の1日でも早い発見を願いたい思います。

自衛隊の航空事故はこれまでもありましたが、今回は着任したばかりの第8師団長のほか、第8師団司令部の主要な幹部が搭乗していたという特殊性のためか、その事故原因について様々な憶測を呼びました。
その中には、「付近を航行(と言っても相当離れていますが)していた中国海軍が攻撃した」とか、「中国が電磁波を利用した新兵器を使用した」のような奇想天外なものも。
当日の気象は飛行に問題はなく、事故直前に偶然撮影された映像でも異常は見受けられず、救難信号も出されていない・・・
「それならば」ということなのでしょうが、あまりに短絡的な発想のように感じます。

しかし、個人的にあまりに酷いと感じた憶測は、「着任したばかりの師団長を喜ばせようと、パイロットが接待としてアクロバチックな飛行をした可能性も」というものです。
以下がそれに関連した記事の抜粋です。

ある元陸自幹部は、“体験飛行”をしていたのではないか、と推測する。
「幹部が搭乗した際に、パイロットから『前方にある雲の中に入ってみますね』とか、『急上昇をしてみますか』といった、少しアクロバティックな“体験飛行”を提案することはよくあります。いわば接待を兼ねたようなものです。
(中略)もしかすると、低空飛行をして“ホエールウォッチング”をしていたのかもしれません。

出典:Flash記事 陸自ヘリ事故、激しい衝突の形跡に深まる疑問と不安 元幹部は「ホエールウォッチング」島民は「やっぱり中国が」

この「元陸自幹部」とはどの程度の地位にあった人なのかは分かりませんが、あまりハイレベルでの勤務経験や、そもそも自衛隊での勤務経験に乏しい人のように感じます。
というののも、今回のヘリコプターの運用は、師団長による初度視察のためであったからです。

厳格に行われる初度視察

新しい指揮官が着任すると、自身の担任する防衛警備区域や隷下部隊の視察を行うのが一般的で、陸自ではこれを「初度視察」と呼んでいます。
その目的は、指揮官自らが担任地域の様相を認識したり、部隊の士気などを直接肌で感じあることにあり、その後の隊務運営や部隊指揮の基礎を作るもので、視察する側・受ける側にとって極めて重要なイベントです。
特に視察を受ける側にとっては、部隊の印象を決定づけるものになるため、綿密に受け入れ計画を立て、予行(リハーサル)を行うなどしっかり準備します。
また、スケジュールは分刻みであり、これを遅らせるようなことがないように細心の注意を払うのが普通。
僕も現役時代に何度か初度視察を受けたことがありますが、部隊長による事前点検もあったりして、相当な緊張感を持って臨んだことを思い出します。

第8師団は、有事には普段の担当警備区とは異なる地域に転用され、かつ、戦略的に極めて重要な島嶼の防衛を任されるという重責を担っているため、着任直後の師団長が真っ先に宮古島で初度視察を行うのは十分に理解できます。
このため、受け入れを担任した宮古島警備隊は「師団長に何を見ていただくべきか」を検討し、第8師団司令部とも、まさに「微に入り細を穿つ」調整を行い、緊張感を持って受け入れたと思います。
そんな雰囲気の中で、航空偵察におけるヘリコプターの運用を任された第8飛行隊のパイロットは、「視察の目的を達成できるように」と必死だったことでしょう。
まかり間違っても、求められてもいないアクロバチックな飛行で師団長を喜ばせようなんて思考は1mmもなかったはずです。
これはよく考えてみれば当たり前。
もし仮に、急上昇や急降下などスリリングな飛行をやって、その結果師団長が乗り物酔いで気分を悪くされ、最悪嘔吐してしまうようなことがあったらどうなるでしょうか。
しかも、第8師団司令部の主要な幹部が見ている前で。
普通に考えたら、パイロットはそんなリスクを冒すようなことはしないですよね。
確かに、「体験搭乗」では任務中のパイロットや航空機の状態を体験するために、戦闘中に実際に行う過酷な飛行を再現することはありますが、今回は飛行の目的は初度視察。
しかも、訓練空域でも演習場でもなく、陸地からも見える一般地域の上空を飛行していたので、そこでアクロバチックな飛行などあり得ないと思うわけです。
「師団長が乗ったヘリが規定を破って超低空を飛行し、付近を航行していた漁師からクレーム」なんて見出しの記事が出た日には、目も当てられません。

師団長が規則破りな飛行を命じることもあり得ない

一部では、「師団長が低空飛行を命じたのでは」という記事もありました。
しかし、それもあり得ないと思います。
仮に師団長が飛行高度に関する規定を承知しておらず、パイロットにもっと低く飛ぶよう指示したとしても、パイロットは最低高度に関する規定を師団長に説明し、理解を求めるはず。
それに対して師団長が「命令だ」と飛行を強要することはあり得ません。
なぜなら、多数の師団司令部の幹部の前で、法や規則に背くことを是認するような行動はできないからです。
また、最近では公益通報により、上司の不正はすぐに暴露されてしまいます。
師団長そのものの立場を危うくするようなことは、ご本人はもちろんのこと、周りも認めることはないでしょう。

冷静に原因究明の経過を見守る

5月2日、引き揚げられた機体からフライトレコーダーが回収されたと報じられました。
今後、回収したレコーダーの解析が進めば事故原因も明らかになるでしょう。
なので、今はその経過を冷静に見守るべきです。
センセーショナルな憶測は誰の得にもなりません。

今回の事故を記事にすべきかどうか悩みましたが、あまりに酷い憶測記事が見受けられたため書くことにしました。
国防に殉じた方々とその家族や関係者に思いを致しつつ、事故原因の究明と再発防止策が発表されるのを待ちたいと思います。

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