能登半島地震に伴う災害派遣〜自衛隊は戦力を逐次投入したのか?という疑問に答えます。

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立憲民主党の議員が「逐次投入」と批判

まずは1月1日に能登半島で発生した大地震によりお亡くなりになられた方々に対しまして、謹んでお悔やみ申し上げますとともに、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。

1月6日付の東京新聞のweb記事で「自衛隊派遣、なぜ小出し?熊本地震時の5分の1 対応できない救助要請たくさんあったのに…首相の説明は」という見出しがあり、熊本地震の際の派遣規模と比較して「あまりに小さい」と批判していました。
以下、記事にあった比較表の抜粋。

日数熊本地震での派遣人数能登半島地震での派遣人数
2日目2000人1000人
3日目1万4100人2000人
4日目2万人4600人
5日目2万4000人5000人
熊本地震での派遣規模との比較(出典:東京新聞「自衛隊派遣、なぜ小出し?熊本地震時の5分の1 対応できない救助要請たくさんあったのに…首相の説明は」)

表だけ見ると、記事の通りで確かに小出しにしているような印象を受けます。
また、立憲民主党の議員も「自衛隊が逐次投入になっており、あまりに遅く小規模だ」と批判しています。
逐次投入は、ミリタリーの世界では絶対にやってはならない愚策と認識されています。
これは太平洋戦争のガタルカナルの戦いで、日本軍は米軍の規模を見ながら戦力を逐次拡大していった結果、大量の損耗を出して敗北した戦訓から来ているものです。
このため、「当初の段階から可能な限り大きな戦力を投入する」というのが、現代の作戦上の基本的な考え方となっています。
これを今回の災害派遣に置き換えると、「空振りになっても良いので、最初から数千人以上の規模の部隊を投入すべき」ということになりますね。

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愚策とされる逐次投入だったのか?

意図的な戦力の逐次投入ではない

私は「戦力の逐次投入」という愚策を犯したとは考えていません。
なぜなら、統合幕僚監部のホームページを見ると、1月2日の午前10時40分には、中部方面総監を長とする1万人規模のJ TF(Joint Task Force:統合任務部隊)の編成が決定されており、このことから「様子を見ながら戦力を拡大する」という考えはなかったことが伺えるからです。
ではなぜ、戦力を小出しにしたかのような印象を受ける部隊運用となってしまったのか?
それには、被害が大きかった能登半島の地形に一つの要因があると考えます。

能登半島の地形が戦力集中を阻害

今回の震災で特に被害が大きかったのは、輪島市、珠洲市といった能登半島に所在する市町村でした。
能登半島の地形を地図で見ると、中央部に山地と、その合間を縫うような道路があり、多数の車両が同時に通行できるような主要な道路は、海岸沿いに、半島をなぞるように存在していることが分かります。
しかしながら、報道でもあった通り、半島内の主要な道路は諸所崩壊していてスムーズな前進が困難であり、また、半島中央部の山地内の道路は、山崩れによる寸断や、斜面崩壊の危険があり使用できない状況にあったと推測されます。

「では、海上自衛隊の艦艇を使って海からアプローチすれば良いのでは?」と思われるかもしれませんが、今回は津波の被害が出ており、港湾に大型艦艇が達着できるかは調査してみなければ分かりません。
このため、「最初から水上艦に多数の部隊を乗せて・・・」はできなかったと思います。
そうすると、残されたのはヘリによるアプローチですが、ヘリは人は運べても、倒壊した家屋の除去に必要な重機などを、短時間に大量に輸送することは困難です。
例え空中輸送により1万人が能登半島に集結したとしても、人命救助に必要な資材や機材がなければどうにもなりません。

結果的に、まずは陸路からのアプローチで被災地に前進するしかなく、限られた道路網で、且つ通行に支障のある状況だったために、戦力を小出しにしたような印象を与えてしまったと私は考えます。

大部隊が展開するためには相応の地積が必要

災害派遣部隊の規模を熊本地震と比較して「少ない」という意見もありますが、仮に道路が十分に使えたとしても、大規模な部隊が一挙に能登半島に集中したらどうなるのか?
能登半島は狭い平野部に町があるのが特徴で、自衛隊、警察、消防の活動の中心は当然ながらこのような地域になります。
そうすると、少ない空き地や道路は、警察、消防を含む災害派遣部隊の車両で埋め尽くされ、住民の避難を阻害してしまうかもしれません。
また、自衛官といえども人間なので、活動期間中に休憩することも必要になりますが、立って休むわけにもいかないので、住民の避難に支障のない場所に宿営地を設けることもあります。
宿営地は斜面に構えることはできないので、残されたごく僅かな平らな地積に設定することになります。
これらより、数千人以上の規模が発災当初から現地に進出し、駐車場所と宿営場所を確保しながら活動することには、やはり無理があるのでは?と思うのが自然ではないでしょうか。
地積が限られる地域では、大部隊を展開させるための下準備も必要なので、結果的に徐々に部隊規模が大きくなる「逐次投入」のような形になってしまったのかもしれません。

まとめ

今回の災害派遣は、能登半島という地形の特性ゆえに、部隊が一挙に展開できず、結果的に逐次投入のような形になってしまったと結論できます。
なお、今後は人命救助から生活支援へとフェーズが移行していきますが、いずれにせよ、派遣人数よりも、活動内容に見合った機材・資材が十分にあるのか?ということが重要になってきます。
倒壊家屋の除去、道路の復旧を急ぐのであれば、重機もそれなりに必要です。
また、入浴支援や給食支援、洗濯支援にも、避難住民を受け入れるだけの十分な器材を揃える必要があります。
今後の災害対応の状況に関しては、これらについても注目していきましょう。

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