防衛省が観閲式の中止を決断〜機能してナンボの自衛隊に向け大きく前進

安全保障環境を理由に観閲式を中止

7月30日、防衛省は「今後の観閲式について」というお知らせを同省ホームページに掲載しました。
以下はその抜粋です。

防衛省・自衛隊におきましては、例年、全国から多数の部隊・装備を一か所に集結させ、観閲式、観艦式及び航空観閲式(以下「観閲式等」という。)を実施してまいりました。

しかしながら、我が国が戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面する現在、隙のない我が国の防衛態勢を維持する上で、そのような観閲式等を実施することは困難な状況に至っております。このため、今後、観閲式等は、我が国を取り巻く安全保障環境が大きく変化しない限り、実施いたしません。

防衛省ホームページ:今後の観閲式等について

ここから読み取れるのは、「安全保障環境の厳しさが増していく中、こんなことやってる暇はもうないよ。」と言うことですね。
自衛隊ファンの中には、この発表にがっかりした人もいるかもしれません。
多数の隊員、車両が目の前を行進し、空を見上げればそこにも多数の航空機が整然と飛行する。
確かに迫力ある光景です。
でも、これを開催する自衛隊側にとって、大きな負担であったことは間違いないことです。

観閲式の舞台裏--見えいないところで膨大な準備を必要とするイベント

陸上自衛隊の観閲式といえば、堂々と行進する部隊に目を奪われがちですが、実はその裏ではとんでもない準備が進んでいます。
まず、観閲部隊(行進する部隊)は、本番に向けて約1か月もの間、隊列や敬礼動作、足並み、腕振りの高さの揃え方まで徹底的に訓練します。
でも、大変なのは彼らだけではありません。
会場設営に始まり、資機材の搬入・維持管理を担う部隊、それらを後方から支援する部隊、装備品展示を担当する部隊、当日の来賓接遇や一般来場者対応を行う部隊、さらには車両整備や緊急対応チームまで、多くの隊員が各所でフル稼働しています。
この観閲式は単なるイベントではなく、「統率の取れた精強な部隊」を国の内外に示す一大プレゼンでもあるんです。
だから、「おっ、すごいな」と思ってもらえなければ意味がない。
来場者が目にする全てが演出の一部とも言えます。
また、部隊行進だけでなく、来て、見て、帰るまでが一つの体験。
シャトルバス運行、総合案内の設置など一般来場者向けのホスピタリティも抜かりなし。
正直、私が現役の頃は「ここまでやるの!?」と思っていました。。
しかしこれは、過去に「憲法違反」「税金の無駄遣い」といった批判にさらされていた時代、国民との距離をどうにか縮めようとした努力の名残なのかもしれません。

中止によって生じるマイナスよりもプラス効果が大きい

私は陸自の観閲式しか知りませんが、観艦式や航空自衛隊の観閲式も、その準備やイベント当日の大変さはおそらく同様でしょう。
もちろん、観閲式にはポジティブな面もあります。
一般の方にとっては自衛隊に触れる良い機会。
自衛隊にとっては、整然と行進する姿を見せることで頼もしさを感じてもらい、信頼感を獲得する機会。
さらに、自衛隊員にとっては、最高指揮官である内閣総理大臣から直接訓示を受けられる貴重な機会でもあり、士気高揚につながるのも事実です。
しかしながら、そのために犠牲にするものはやはり大きいと言わざるを得ないです。
何より問題なのは、「見せる」ことを目的とした訓練に多くの時間とリソースが割かれ、現実的な有事を想定した訓練や、新たな戦い方、多国間のオペレーションに対応するための訓練の時間が圧迫されてしまう点です。
だから、今回の防衛省の決断は、本気で有事への対応を考えた結果であり、個人的には「機能してナンボの自衛隊へと確実に進化したんだな」と捉えています。

中止によって生じるマイナスの側面は補うことができると思います。
自衛隊との触れ合いの場は、防衛省の公式サイトでも案内されているように、全国各地の駐屯地や基地で開催される各種イベントで得ることができます。
むしろ観閲式以上に、より近い形で隊員の活動を感じられるかもしれません。
また、部隊の精強性を国内外に示すには、実際の訓練の一部を公開するほうがリアリティも高く効果的です。
さらに、政府要人による部隊訪問と、部隊の特性に応じた訓示を現地で行うことで、観閲式に勝るとも劣らない士気高揚の効果が期待できるはずです。

ところで、「大々的な観閲式(軍事パレード)を行っている国」と聞いて、どんな国を思い浮かべるでしょうか?
北朝鮮、ロシア、中国……そんな名前が挙がるかもしれません。
NATO加盟国やオーストラリアが同様のパレードを行っているイメージはあまりありません。
実際には行われている可能性もありますが、やはり話題になるのは共産主義・社会主義国家のパレードです。
「見せる」ことに特化したイベントは、もしかすると時代の流れにそぐわなくなってきているのかもしれません。

中止は後退ではなく、自衛隊が国民の信頼に応えるための一歩。
そう前向きに捉えたいものです。

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