ニュース解説:「びっくり箱」と称されたT-72は設計上の欠陥以外にも弾薬にも難あり
被弾すれば砲塔が「びっくり箱」のように吹き飛ぶ
4月29日付のCNN日本語版のwebサイトに、ロシア製の戦車、T-72を「びっくり箱」と称する記事が掲載されていました。
専門家らは戦場を写した画像から、ロシア軍の戦車がある不具合を抱えていることが分かると指摘する。それは西側諸国の軍隊が数十年間にわたり認識している欠陥で、「ビックリ箱」効果と呼ばれている。
まるで「ビックリ箱」、ウクライナで戦うロシア軍の戦車が抱える設計上の欠陥とは
(略)
ロシア軍の戦車は回転式砲塔の内部に多数の弾薬を搭載している。被弾の際の危険は極めて大きく、直撃ではない場合でさえもそこから連鎖反応が始まり、搭載する最大40発の砲弾がすべて爆発する恐れがある。
その結果生じる衝撃波の威力で、砲塔は2階建ての建物ほどの高さにまで吹き飛ぶこともある。
これは日本のテレビニュースでも、被弾して大爆発を起こし、相当な重量のある砲塔が空高く舞い上がる映像が流されていました。
ご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このほか、Youtubeでは、シリア軍の保有するT-72が被弾し、巨大な火柱がハッチから立ち昇る映像も見ることができます。
これらの現象についてCNNは、砲塔内部に多数の弾薬を搭載していること原因と指摘しています。
T-72とは〜世界に先駆け実用的な自動装填を採用
T-72は1973年から生産が始まった第2世代戦車です。
第2世代とは、1960年代半ば以降に登場した戦車で、105mm以上の戦車砲を搭載し、機動性に富むものとされていますが、日本の74式戦車も同世代と言われているので、FCS(Fire Control System:射撃統制装置)が電子化され、レーザ測距による高角の自動設定、目標方向に砲を指向し続ける砲安定システムの搭載なども、特徴として挙げられると思います。
T-72の戦車砲は125mm滑腔砲。
当時の西側諸国の戦車砲はライフル砲と言って、拳銃と同じく砲身内に施条があり、弾頭部が回転しながら飛んでいくのが一般的でした。
戦車砲を滑腔砲にする利点は、発射時の初速が速くなることで威力が増すことと、弾頭部が回転しないので地球の自転の影響を受けにくく、命中精度が上がることが挙げられます。
また、T-72は世界で初めて「実用的」な自動装填装置が採用された戦車でもあります。
旧ソ連製の戦車では、60年代に登場したT-64にも搭載されていましたが、扱いが難しく、事故が多発したため、実用的とは言い難いものでした。
しかし、T-72の自動装填装置は信頼度が(T-64に比べて)高く、実戦に耐え得るものになっています。
弾頭と装薬を分離〜「難あり」の梱包装薬の集中保管に要因?
この自動装填にした際、弾薬の金属製の薬莢を廃止して、弾頭部と装薬部に分離させた弾薬を採用しました。
金属製の薬莢だと射撃直後はかなり高温で、僕が74式戦車に乗っていた頃は、雨衣(あまい:雨合羽のこと)のズボンの裾をチリチリに焦がすこともありました。
そして、数発射撃すると、撃ち殻薬莢が戦闘室内をごろごろして危ないので、装填手泣かせでもありましたね。
装薬を梱包装薬にすれば、射撃後の「ゴミ処理」の必要もなくなります。
実際に射撃している時のT-72の車内の様子がYoutubeにありました。
弾頭部が装填された後、梱包装薬が押し込まれていくのが分かるかと思います。
この梱包装薬は、砲塔下部に集中補完されていますが、大爆発の原因はここにあるような気がします。
おそらく・・・ですが、この装薬はなんらかの保護する素材で梱包されているとは思うのですが、これの耐熱性が低いのではないでしょうか。
それに加えて集中保管。
一旦火がつくとたちまち大爆発しそうですね。
もう一つ推測すると、上向きに保管されていて、爆発すると砲塔が「発射」されたように上向きに突き上げられるのではないでしょうか。
これらをまとめると、単に「弾薬が砲塔内に保管されているから」というだけではなく、「誘爆を起こしやすい火薬の塊が、不適切な方向に集中保管されている」ことに問題がありそうです。
ちなみにですが、個人的には、ランマー(装填するための棒状のもの)が2つもあって非常に複雑な構造に見えます。
故障が多いらしいのですが、なんとなく分かる気がします。
この複雑な構造を狭い車内に押し込めたため、弾薬が砲塔下部に保管されるようになったのかもしれませんね。
他の国の戦車は?
米国のM1戦車の場合、弾薬は砲塔の後方に収められており、乗員のいる戦闘室とは鉄製のシャッターで仕切られています。
その映像はこちら。
映像で見る限り、このシャッターは手動ではなく、なんらかのセンサーに反応して電動で開閉するタイプのようですね。
厚さも30mmくらいはありそうです。
さらに、この手の戦車は、被弾して弾薬庫内で誘爆が起きても、その衝撃が上に抜けるようになっており、戦闘室への被害を極限できる構造になっています。
ちなみに、この映像では2発目で装填不良を起こし、装填手が再装填している様子も映っています。
自動装填は便利ですが、このような事態が起きたときは、砲手または車長が対応しなければなりません。
そうなると、必然的に指揮が中断したり、監視が疎かになってしまいますね。
余談ですが、弾薬には焼尽薬莢が使われています。
こちらの射撃中のM1戦車の車内の映像で、射撃後に閉鎖器が開き、燃え残った弾底部のみが排出されるのが確認できるかと思います。
この薬莢は射撃時に燃え尽きるタイプで、日本の90式戦車の弾薬にも採用されています。
ひらたく言うと紙製のようなものですが、耐水性があり、また、一定の耐熱性もあるという優れものです。
まとめ
ロシアの戦車の「びっくり箱」現象は、「弾薬が砲塔内に保管されているから」と言うことに間違いはないのですが、さらに言えば、耐熱性の低い梱包装薬が、不適切な方向で砲塔下部に集中保管されているため、と言えそうです。
何か物作りに対する姿勢が感じられますね。