ニュース解説:戦争の報道でいつも感じる違和感〜ジャベリンにHIMARS、「これさえあれば」はありません!

ジャベリンとHIMARS、でも結局戦車

1月22日の朝日新聞デジタルに、「バルト3国外相ら一斉ツイート、ドイツに戦車提供求める」という記事が掲載されていました。

バルト3国のエストニア、ラトビア、リトアニアの外相が21日、ドイツがウクライナへの供与をためらっている主力戦車「レオパルト2」の提供を求め、一斉にツイートした。
ツイートは3者とも同じ文章で、21日午前9時半(日本時間午後4時半)ごろ、ほぼ同時に投稿された。「ロシアの侵略を止め、ウクライナを支援し、欧州の平和を回復するために必要だ」とし、ドイツに対し、速やかにレオパルト2を提供するよう要請した。

出典:バルト3国外相ら一斉にツイート、ドイツに戦車提供求める

また、1月14日には、イギリスが同国の主力戦車である、チャレンジャー2の供与を決定しています。

イギリスのリシ・スナク首相は2023年1月14日に、主力戦車「チャレンジャー2」を提供すると述べた。西側諸国がこれほどパワフルな戦車をウクライナに送るのは初めてのことだ。(中略)最初に提供されるのは約12台で、一個中隊の装備としては十分だが、ウクライナが要求している数百台の戦車にははるかに及ばないということをイギリスは理解しているという。

出典:イギリスが主力戦車「チャレンジャー2」をウクライナへ供与…戦況に与える大きな影響とは

去年の開戦当初、米国がウクライナに供与した対戦車ミサイル「ジャベリン」の前では、戦車は全く無力であるかのように報じられていました。
僕の周りにも、「もう戦車はいらないことが証明された。」と鼻息を荒くしている人が少なからずいましたよ。

ジャベリン以外にも、米国が供与したHIMARSが大活躍しているという報道がありましたね。
その記事も、まるでHIMARSが戦況を一変させたかのような記述のものもありました。
もちろん、ジャベリンやHIMARSがゲームチェンジャー的な役割を果たしたことは事実だとは思います。
でも、結局必要なのは戦車のようですね。

報道は兵器メーカーの広告なのか?

「ジャベリンやHIMARSさえあれば」的な記事を読んでいて思い出すのは、1991年の湾岸戦争の時のペトリオットミサイルに関する報道です。
当時のニュースでは、ペトリがスカッドミサイルを撃ち落とすシーンが繰り返し流されていて、ペトリは百発百中のスーパー兵器だと信じてしまったものでした。
また、ペトリの製造メーカーを取材したニュースもありましたが、不況だったアメリカ経済を救う救世主のような感じで扱われていたのを覚えています。
でも、ペトリは経済を立て直すほどのものでは当然なく、また、実際の迎撃率も4割程度と、それほど高くなかったと言われています。
おそらくジャベリンもHIMARSも、その精度や戦果が今後検証されていくのだと思いますが、その結果が出る前にもかかわらず、その報道っぷりは「最強、最高」と言わんばかりのものが目立ちます。
なんだか、報道が兵器メーカーの広告媒体として使われているように感じますね。

戦争は政治の延長、戦闘での勝利はその一部

戦争中は大小様々な戦闘が行われており、そこでの勝敗が戦争の行方を左右することはあります。
そして、その戦闘の勝敗に高性能な兵器が大きく影響を及ぼすことも当然あります。
しかし、戦闘での勝利を積み重ねていくだけでは、戦争に勝つことはできません。
ベトナム戦争やアフガニスタン紛争での、米軍の個々の戦闘での勝利数は、相手を上回っていたかもしれません。
しかし、それでも戦争には勝てないのです。
日中戦争の時の日本もそうですよね。
では、戦争の勝敗に何が一番影響するかというと、これはもう政治力以外にはありません。
プロイセンのクラウゼヴィッツという人が書いた「戦争論」の中に、「戦争とは他の手段をもってする政治の継続である。」という有名な一文があります。
戦争論を読んだことがなくても、これを知っている人は多いと思います。
やっぱり政治なんですね。
いくらジャベリンやHIMARSが高性能であっても、これで戦争に勝利することはできないのです。

戦闘での勝利は総合力が不可欠

また、高性能は兵器があれば全ての戦闘に勝利できるかというと、そういうものではありません。
持っている戦力を組み合わせ、戦いに合わせて上手に運用することが大事です。
なので、「ジャベリンがあれば戦車いらない」とはならず、それぞれの兵器の長所を発揮させ、短所を兵器の組み合わせでカバーすることが必要になるのです。
戦車は強力な兵器であることは事実ですが、地域占領能力はないので、戦車が敵を一掃したあとは、その地域を確保するために歩兵戦力が絶対に必要になります。
ジャベリンもHIMARSも、そして戦車も、使う場面を間違えてしまうと宝の持ち腐れ。
単体で使っても期待する戦果は得られないでしょう。
だから、総合戦闘力を発揮させることが不可欠なのです。
「◯◯さえあれば」はありませんよ。

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