ニュース解説:もう戦車はいらない?! ウクライナでロシア軍は多数の戦車を喪失

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ロシア軍は戦車400両以上を喪失

4月11日のBBCニュースのサイトに、「なぜロシアは多数の戦車を喪失したのか」と言う記事がありました。
これによると、ロシア軍はウクライナで400両以上の戦車を失ったようです。

Ukraine's armed forces say Russia has lost more than 680 tanks.
Meanwhile, Oryx - a military and intelligence blog which counts Russia's military losses in Ukraine on the basis of photographs sent from the war zone - says Russia has lost more than 460 tanks and over 2,000 other armoured vehicles. 
”ウクライナ軍は、「ロシア軍は680両以上の戦車を喪失」と発表”
”Oryx(軍事関連のブログ)によると、戦場の写真から460両以上の戦車と2,000両を超える装甲車を喪失”

出典:Ukraine conflict: Why is Russia losing so many tanks?

ダブルカウントがあったとしても、ロシア軍は400両前後の戦車を失ったとみていいでしょう。
日本の機甲師団である第7師団が保有する戦車が約200両なので、少なくとも陸上自衛隊の2個機甲師団分の戦車を失ったことになります。
これはかなりの数ですね。

ジャベリンやドローンなどの対戦車兵器が有効だった?

戦車の弱点を攻撃できる兵器

BBCの記事によると、アメリカは戦争に先立ち、2,000のジャベリンを、イギリスは3,600のNLAW(次世代軽対戦車ミサイル)を供与したとされています。
この2つの対戦車ミサイルの特徴は、戦車の弱点である砲塔上部からのトップアタックが可能というところ。
確かに、砲塔上部、特にハッチの装甲はそれほど分厚くないので弱点になります。
また、そこだけに限らず、エンジン室(車体の後方)の上面も比較的装甲が薄いので、被弾した場合、人的損害がなくても戦車が機能を失うことは確実です。
さらに、ジャベリンの弾頭部はタンデム構造(二重構造)になっており、最初の爆発でリアクティブアーマー(爆発反応装甲)を吹き飛ばし、2回目の爆発で装甲を破壊できるようです。
(爆発で装甲を破壊するのは、「モンロー効果」と呼ばれる物理的な力によるものですが、今回はその説明は省略します。)
このほかにも、"KAMIKAZE"と呼ばれる、これまたトップアタックが可能なドローンタイプの対戦車兵器も有効だったとされています。

ロシア軍側の問題

ジャベリンなどの対戦車兵器は確かに有効ではありますが、百発百中の万能兵器ではありません。
確実に命中させようとすると、ターゲットの動きが制限されるタイミングをとらえて射撃する必要があります。
例えば、速度を落とさなければならない狭い道路や、地雷に遭遇して身動きできない状態になった時など。
また、待ち構えて撃つタイプの兵器なので、確実に戦車が通過する場所に狙いを定めておく必要があります。
一般的に、これらの場所はある程度事前に見積もることができ、戦車部隊が通過する前に、歩兵部隊で敵の陣地や拠点を制圧するのが通常です。
一方、ロシア軍はBTGs( Battalion Tactical Groups: 大隊戦術群)と呼ばれる編成を基本としています。
これは、歩兵、戦車、砲兵を組み合わせ、総合戦闘力をもって独立的な戦闘を可能にする編成ですが、想定する作戦に応じて、歩兵または戦車部隊を基幹として編成します。
記事によると、今回のロシア軍は戦車部隊を基幹として戦術群を編成しており、戦車部隊を防護する歩兵が少なかったようです。

They're designed to attack quickly with lots of firepower. However, they have very little protection in terms of infantry personnel to escort them and to retaliate if the armored column comes under attack.

"火力を持って迅速に攻撃ができるように編成されているが、歩兵による防護や、梯隊が攻撃された時の反撃手段としての歩兵に乏しかった”

このため、ジャベリンなどの発射陣地を事前に、又は攻撃を受けた際に制圧できなかったのだと思います。
おそらく・・・ですが、短期決戦を想定していたため、目標まで一挙に突進できる戦車中心の編成にしたのだと思います。
しかし、戦闘様相は予期の通りにならず、歩兵戦力が必要とされる場面が多くなったのではないでしょうか。
記事の中では、歩兵戦力の少なさに加え、航空優勢を獲得できなかったことによる空中偵察能力の欠如をあげていますが、空から発射拠点を見つけることは難しいので、個人的には前者に大きな要因があったのだと思います。

兵站上の問題も

ロシア軍が喪失した戦車400両以上のうち、実に半数以上が遺棄されたものとされています。

Half of the tanks Russia has lost have not been destroyed or damaged by the enemy but have been captured or abandoned.

"ロシアが失った戦車の半数は、撃破されたものではなく鹵獲又は遺棄されたものだった”

記事では、ロシア軍の戦車は、燃料切れや、泥濘地で身動きできなくなたことにより遺棄されたものもあり、これは明らかな兵站上の失敗と指摘しています。
以前の記事でも書きましたが、燃料補給や回収は後方支援(兵站)に含まれるもの。
(その時の記事はこちら→「ニュース記事:ウクライナ情勢から見る兵站の重要性」)
短期決戦を前提に準備したロシア軍は、物資の準備はもちろんのこと、第一線部隊を支援する兵站部隊(後方支援部隊)の準備も不十分だった思われます。
このほかにも、新兵と徴用された兵士が多く、全般的に部隊の質が低かったことが、多数の遺棄兵器を生み出した要因だとされています。
ロシア軍のTー72は3人編成で、新兵など階級の低い兵士は操縦手となるのが普通です。
経験未熟な兵士であれば、操縦の練度が低く、橋から転落したり、側溝にはまって履帯(キャタピラ)が外れることもあったと思います。
また、操縦技術の低さは燃費にも影響します。
戦車や装甲車の操縦は、一見簡単そうに見えますが、実はそれなりに技量とセンスが必要なのです。
例えば、平地から上り坂へと移行する前に、エンジンの回転数を上げておかないと、スムーズに登って行けません。
スムーズに登れないと、ギアを1速に落とし、大量の燃料を消費しながら登っていくことになります。
また、泥濘地ではまりそうな時は、2速に入れて、あまりパワーがかからないように配慮することも必要です。
これらの操縦技術を持たない新兵などが多いと、必要以上に燃料を消費してしまうことは避けようがないですね。

主役ではないが”不要”ではない

以上、見てきたことを総括すると、

①個人携行型の対戦車火器に対処するための歩兵が少なかった。
②戦車部隊を支援する兵站の組織の構成、兵站業務の運営がイマイチだった。
③兵士の練度も不十分だった。

ということに集約されるかと思います。
これは、「戦車は不要」ということではありませんよね。
もちろん、兵器や戦術思想の進化により、戦い方は変わってきます。
特に最近では、画像衛星による情報収集、ドローンによる偵察と攻撃、AIを用いた目標識別や未来位置の予測など、50年前には想像できなかったような戦闘様相になっています。
また今後は、ゼロカジュアリティを追求するような考えが主流になってくるでしょう。
これらの要因により戦い方が変わると、戦車は以前のように「陸戦の主役」ではなくなるかもしれません。
しかし、出番がなくなってしまうとは思いません。
直射火器である戦車砲を搭載し、装甲防護力を有し、機動力にも優れ、通信能力や情報共有能力など、歩兵には決してマネできない能力も十分にあります。
だから、この戦車特有の能力を活かせる場面では、やはり戦車を使っていくのだと思います。

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