「災害派遣で活躍する自衛隊」は本来の自衛隊ではない〜国民に誤ったメッセージを送らないために

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災害では被災者を助けるが戦争の時は助けない?

8月27日付のPRESIDENT ONLINEに、『「自衛隊=レスキュー隊」という認識が強すぎる…ロシア・ウクライナ戦争でわかった日本の大きな課題』という大変興味深い記事が掲載されていました。
その記事には、武力攻撃事態が発生した際に、自衛隊に災害派遣と同じようなことを期待してはいけない旨書かれています。
以下、記事の大事だと思う部分の抜粋です。

これを読んで「マジ?じゃあ何のための自衛隊なの?」と思った方もいるかと思います。
もちろん、武力侵攻があった時に国民を助けない訳ではありません。
ただ、その形態が災害派遣とは異なるのです。

街の便利屋さんのように使われても全力で対応してしまう弊害

自衛隊は長らく違憲か合憲かで、その存在の可否や意義が問われてきました。
国家の機能として、国防を担う組織が必要だということは合理的には理解できるものの、武器を持つが故に、何か恐ろしい組織のようなイメージを持たれ、さらには「平和な日本に本当に必要なのか?」という意見もありました。
そんな自衛隊が、災害派遣で献身的に活動する姿を見せることは、その存在意義に対する国民の理解と、組織に対する親しみを獲得するために効果的だったと思います。
また、自衛隊は真面目な人が多いので、普通に考えれば、「これって自衛隊でなければならないのか?」と思ってしまうことでも全力で対応してしまいます。
例えば、東日本大震災の時ですが、ある被災地の体育館で、「ここら辺が汚れているからきれいにして」と言われ、雑巾掛けを行なっている自衛隊員の姿をテレビで見ました。
また、2019年の令和元年房総半島台風のニュースでは、被害を受けた家屋の雨漏り防止のために、自衛隊員がブルーシートを屋根の上にかている様子が報じられていました。
自衛隊はお掃除が得意な組織ではありませんし、ブルーシートで雨漏りを防ぐ訓練など行ったこともありません。
それでも、現場の隊員たちは与えられた任務を達成しようと一生懸命なので、これらのことにも全力で対応します。

災害派遣以外でも、本来の目的とはちょっと違う使われ方をする部隊があります。
それは航空自衛隊の航空救難団。
山で遭難した人を助ける場面が時々ニュースで報じられます。
また、彼らの訓練の様子を伝えるドキュメンタリー番組など見ると、山で遭難した一般人を助けるために、日々訓練をしているような印象を持ってしまいます。
しかし、彼らの本来の任務は、自衛隊の航空機に事故が発生した場合、その搭乗員の捜索・救助をすること。
これは航空救難団のホームページにもしっかり書かれています。
「事故が発生した場合」となっていますが、戦場で撃墜された航空機の搭乗員の救助も当然含まれるわけです。
しかし、自衛隊を扱う番組でそんことはには一切触れません。

これらの結果、自衛隊は「お困りごとを解決する気のいい街の便利屋さん」のようになってしまい、「自衛隊に言えば何でもやってくれる」という誤ったイメージを植え付けてしまっている気がしてなりません。
現場で一生懸命に働く隊員に罪はないのですが、災害派遣での活動をクローズアップしすぎた故の弊害だと思います。

そもそも野外入浴セットは何のために装備しているのか?

災害派遣、自衛隊、と言われて、被災者の入浴支援を行う部隊の姿を思い浮かべる人もいるでしょう。
ニュースでもよく取り上げられますよね。
また、入浴支援を行う部隊は、“◯◯の湯”という「のぼり」を掲げたり「のれん」をかけて、まるでお風呂の運営が本業かのように見せています。
(余談ですが、あの「のぼり」や「のれん」はどういう予算科目で買っているの気になりますが。)
しかし、そもそも自衛隊になぜ野外入浴セットが装備されているのでしょうか?

もちろん、被災者に癒しを提供するためではありません。
野外入浴セットは、隊員個人の保健衛生を維持するとともに、部隊の士気を高揚させ、戦闘力を回復するためにあるのです。
ここで重要なのは「保健衛生」。
自衛隊は劣悪な環境下で長期間の任務を遂行する組織です。
隊員が長期間不衛生な状態に置かれると、病気などが蔓延して戦闘力が低下してしまいます。
それを防ぐため、隊員の身体を「洗浄」して清潔にし、健康を維持することで個人の戦闘力を維持させ、さらに戦う気力を充実させるのが野外入浴セットなのです。

私が現役時代に、災害派遣での入浴支援は防疫目的で行なっているという話を聞いたことがあります。
「災害で精神的にダメージを受けた被災者を癒すこと」が第1の目的ではないということですね。
そもそも、自衛隊の風呂よりも、民間の温泉センターの方が”癒し”という意味では優れています。

また、災害派遣の給水支援で使われる水トレーラーは、武力攻撃があった際には隊員の水分補給や部隊での炊事に使われ、給食支援で使われる野外炊事車は、隊員の給食のために使われます。
武力攻撃で被害を受けた時、被災者のために自衛隊が防衛費で食材を買ってきて、野外炊事車で調理して配給することはないでしょう。

国民に正しく理解してもらうPRが必要

ここまで読んで、「なんだ、自衛隊は戦争が起きたら国民を助けないのか」と思ったかもしれませんが、そんなことはありません。
国民を助けます。
ただ、それは他の組織にはできない、自衛隊だからこそできる形態で。
それは、敵の武力攻撃から身を挺して国民を守るということです。
つまり、戦闘という、最前線で敵の攻撃を排除する命懸けの行動をもって、国民の生命と財産を守るのです。
そして、皆さんが災害派遣で見かける野外入浴セットや水トレーラーなどは、第一線部隊の隊員をサポートするために使われます。

では、誰が武力攻撃で被害を受けた人を救助したり、避難した人の生活を支援するのでしょうか。
国はもちろんですが、その主体は地方自治体になります。
武力攻撃が発生した際のその種の活動は、いわゆる「国民保護法」の中に規定されていて、地方公共団体の責務として以下のように定められています。

ここでいう「国民の保護のための措置」とは以下の6項目です。
①警報の発令、避難の指示、避難住民等の救援、消防等に関する措置
②施設及び設備の応急の復旧に関する措置
③保健衛生の確保及び社会秩序の維持に関する措置
④運送及び通信に関する措置
⑤国民の生活の安定に関する措置
⑥被害の復旧に関する措置
これを見れば分かるように、災害派遣で自衛隊が行なっているようなことは、第一義的には地方自治体(警察、消防含む)が担うことになります。
実は、一般的な災害対応も、その主体は地方自治体なのですが。

もちろん、自衛隊も国民保護等派遣として出動することもありますが、自衛隊法を見ると、都道府県知事等から防衛大臣に対して要請があった場合で、「事態やむを得ないと認めるとき」に「内閣総理大臣の承認」を得て派遣できるという条件付きで規定されています。
武力攻撃への直接的な対処ができるのは自衛隊に限定されるため、第一線での防衛任務に専念すると考えるのが妥当であり、事態やむを得ず、総理がOKすることは相当なレアケースと認識しておくべきだと思います。

以上のことを知ってもらうために、自衛隊の本来の任務について、正しく発信していくPRが必要ではないでしょうか。
テレビで自衛隊の装備が紹介される際、災害派遣と絡められることがやたらと多いのが気になります。
本来の使い道があって、それがたまたま災害派遣のニーズとも合致するので使用している、と説明するべきです。

また、「自衛隊=災害対応」のイメージを払拭していくPRも必要となるでしょう。
いざという時に、「自衛隊に裏切られた」という印象を持たれてしまうと、「国民を見捨てた自衛隊」とされ、自衛隊への拒否反応へとつながるリスクがあります。

自衛隊の存在意義に対する理解は深まってきているので、今こそ「自衛隊の本来の姿」を知ってもらうことにシフトするタイミングではないでしょうか。

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