自衛隊に欠落する人的予備〜パイロットや戦車乗員などの予備要員は確保されているのか?

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令和7年概算要求:人的基盤を抜本的強化

8月30日、令和7年度予算の概算要求が防衛省ホームページに公開されました。
その内容を見ますと、スタンドオフ防衛能力や領域横断作戦能力の強化など、主にハードウェアの取得に係る施策が重点ポイントとして挙げられています。
これは従来の防衛力整備の思想と同じで、取得する装備品等は将来に備えたものであるとはいえ、それほど目新しいことではありません。
一方で、新たなプロジェクトとして「人的基盤の抜本的強化」を挙げいているのは、個人的には注目すべきポイントだと思います。
今や自衛隊は募集難の時代。
任務は増えるが人が集まらない状況に、陸海空自衛隊は本当に苦労しています。
このため、今回の概算要求では、以下の3つの取組みを挙げています。

①処遇面を含む職業としての魅力化
②AI等を活用した省人化・無人化による部隊の高度化
③OBや民間などの部外力の活用

この中で、③を見たときに「おお!」と思いましたが、内容を見て「う〜ん、どうなんだろう?」と思ってしまいました。
その内容は、

・ヘリ基本操縦教育(飛行教育、シミュレータ保守)における民間力活用の拡充
・哨戒艦の教育カリキュラム及び教材作成等への部外力導入

OBの活用ってこの程度なのか、それとも公開できる部分がこの程度で、実際はもっと深いところまで考えているのかは分かりませんが、
ウクライナ戦争や中東情勢を見ていると、もっと違うことを考えるべきだと思います。

専門的技能を持つ隊員は有限

最近の戦争は、最初は短期間で終わると思われていたものが、予想外に長期化してしまう傾向にあると思います。
特にウクライナ戦争はそうですね。
戦争が長期化することでどんな問題が生じるのでしょうか?
私は、戦闘機のパイロットや護衛艦等の乗組員、陸自でいえば戦車乗員など、専門的な技能を必要とする隊員の確保ができないという問題に直面すると思います。
特に、第一線部隊と呼ばれる、戦闘に直接関与する部署の隊員を、一定数維持するのは相当難しいのではないでしょうか。
ここには、先ほど挙げた戦闘機のパイロットや戦車乗員が含まれるわけですが、彼らを一人前に育て上げるには時間がかかります。
例えば、戦車のドライバー。
戦車は大型特殊免許を持っていれば、法的にも物理的にも操縦することはできます。
しかし、戦闘に応じた操縦ができるようになるまでには、相当の訓練時間が必要なのです。
戦車のドライバーは、車長の号令に応じて、車両を前に後ろに動かせれば良いというわけではありません。
例えば、射撃号令がかかったら、なるべく平らな地面を選んで速度が急減速しないように操縦したり、射撃時には、砲手の射弾観測(弾の行方の観測)を補佐したり、停止して射撃したあとの発進が予測されるときには、エンジンの回転数をタイミングよく上げて、発進直後から速度を発揮できるようにしたりと、ただアクセルを踏んでハンドルを操作する以外にも、たくさんのことが同時にできなければなりません。
特に、戦車のドライバーは小さな視察窓から前方を確認し、路面状況などを読み取らなければならないため、経験値の浅いドライバーは操縦だけで手一杯になってしまい、その結果、車長の注意も操縦に注がれて全般の状況把握が難しくなってしまいます。
戦車の乗員でもこうなので、戦闘機のパイロットとなると、その育成はもっと大変でしょう。
そして、これらの第一線で必要とする技能者は有限である一方で、損失が多いのが実態です。
ウクライナ戦争でも、多数の戦車や戦闘機が破壊または撃墜されています。
2024年2月のロイターの報道では、ロシアは2022年の開戦以来、約3,000両の戦車を失った(ニュースソース:ロシア、ウクライナで3000両超の戦車喪失=国際戦略研究所)とされています。
双方の戦闘機の喪失数については、最新かつ確からしい情報は見つけられませんでしたが、ロシア軍は82機の固定翼戦術機を失った(ニュースソース:ロシア軍はどれだけ航空機を失った?高性能機の損害相次ぐ 制空権の獲得は不可能か)との報道がありました。
もちろん、大陸と日本のような島国では、その戦闘様相に違いはあり、これだけ多くの損失が短期間にあるかどうかは一概には言えないものの、破壊・撃墜となると、乗員、つまり技能者も、破壊されたアセットの数だけ失ったと考えるのが妥当です。
同様のことが日本で起きたときに、防衛省・自衛隊は失った技能者をどのように補填するつもりなのでしょうか。

人的な持続性も重要では?

以前は戦車乗員となる即応予備自衛官がおり、部隊で訓練を受けていたのですが、数年前にこれをやめてしまいました。
その理由は、「予備自衛官に戦車乗員は無理」と判断したからだと聞いています。
(伝聞情報なので、これが本当の理由かどうか分かりませんが。)
私が現役の頃、「機甲科職種出身とはいえ、予備自衛官に戦車乗員ができるほど戦車は簡単ではないよ」という発言を耳にしたことがあります。
確かにそれは正しいです。
でも、だからこそ予備自衛官の戦車乗員が必要だと思うのです。
いざという時にゼロから育てる必要がないので。

令和7年度の概算要求の中に「予備装備品の維持」として、継戦能力を確保する目的で、不要となった74式戦車や90式戦車を長期保管するとありました。
しかし、モノはあっても、これを使いこなせる技能者がいなければ鉄の塊に過ぎません。
戦闘機に関しては、もしかすると友好国から供与されるかもしれません。
しかし、戦車でも戦闘機でも、これを使いこなせる人材がいなければ機能しないのです。

ここまで読んで、「じゃあ、部隊から現役自衛官を引き抜いて養成すればいいのでは?」と思われた方もいるかもしれません。
しかし、募集難という事実が示すように、人は潤沢にはいないのです。
有事であれば尚更、他の職域から戦闘機パイロットや戦車乗員として現役自衛官を引き抜けるほど人は余っていません。
そうなると、それらの経験を持つOBを予備自衛官として確保しておき、いざという時に召集して訓練し、部隊に配属する方が現実的ではないでしょうか。
なお、ここでいうOBとは、定年退官者のみならず、途中で転職した20代〜40代の元自衛官も含まれます。

日本は職人気質が強いのか、ベテランに依存する傾向があり、そして育成したベテランを失うことはあまり想定していないように感じます。
これは旧軍の頃と同じです。
太平洋戦争では、ミッドウェー海戦やマリアナ沖海戦で多数のベテランパイロットを失い、航空戦力が大幅にダウンしました。
しかし、日本海軍はこれを補填する人材を確保していなかったため、徴兵された未経験者を即席でパイロットに仕立て、なんとか凌ごうとしましたが・・・
結果はみなさんご承知の通りです。
同じことが今後起きないとは限りません。
専門的技能を有する人材を予備自衛官として確保し、いざという時に備えて最低限の訓練を継続的に行うといった施策が必要ではないでしょうか。

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