陸自の情報業務 情報を収集・処理して使用されるまでの一連のサイクル

皆さん、こんにちは。
今回は陸上自衛隊における情報業務のサイクルについて解説します。
この解説も、陸上自衛隊の戦術教範(教科書)である、野外令の記述に沿って行います。
この本は一般には販売されていませんが、国立国会図書館で昭和43年3月版を閲覧することができます。

そもそも情報の目的とは

巷ではよく、「情報を制するものが◯◯を制する」という言葉を耳にします。
会社でも「もっと情報を集めないと、攻めどころが分からないよ〜」とか言われたりします。
情報って大事なんだな〜と思う一方で、そもそも、情報とは何を目的としたものでしょうか?
これって分かっているようで、実はよく理解されていないように思います。
野外令では、「情報」は「作戦の基礎的諸活動」という項に記述されており、その目的は、「指揮官の状況判断に資するため、敵情や地形を解明すること。」とされています。
これを会社に置き換えるなら、「競合他社や顧客、市場の状況を解明する。」と言うことですね。
ちなみに、日本語では「情報」と言う一つの単語しかありませんが、英語だと「information」と「intelligence」の2つの単語に分けられます。
「information」を自衛隊では「情報資料」と言い、イメージとしては「見たまま、聞いたままの情報」になります。
一方、「intelligence」は、その情報資料を分析して、判断に使えるような状態に変換した情報を指します。
一例を挙げると、「落ち葉が道路に散乱していた」は情報資料で、「冬が近い」が情報になります。
前者だけだとアクションは取りづらいのですが、後者になると「衣替えをしよう」とか、「暖房器具を準備しよう」とか、具体的な行動に反映できますよね。

情報活動の優越で思いのまま?

野外令では、「情報活動の優越は、先制の利を収め、主動の地位を獲得するため重要」と記述されています。
ビジネスにおいても、情報資料を収集して情報に変換し、これを使用するまでの活動が競合他社よりも優れていれば、相手よりも先にアクションを起こして、こちらが主導権を握れますよね。
つまり、状況を思いのままにできるってことですね。

情報の種類

陸上自衛隊の情報は、戦略情報と作戦情報の2つに区分されています。

戦略情報とは

その名の通り、戦略を立案するために必要な情報で、「国家戦略や防衛戦略に使用する情報」とされています。
イメージ的には全社的な戦略、或いは事業部レベルでの戦略を検討する際に使用される情報と捉えて頂ければいいと思います。

作戦情報とは

これも分かりやすいと思いますが、作戦と戦闘に使用される情報です。
狙った市場での営業活動、対競合や顧客対応で使用される情報をイメージして頂ければ理解しやすいかと思います。

どちらが上位というものではない

戦略情報と作戦情報は密接な関係にあります。
作戦情報が戦略情報の材料になることもあれば、その逆も当然あります。
現場の戦闘で得られた情報を積み上げていくと、相手の意図を類推するために情報になり、戦略を検討する際に必要な情報に変わっていきます。
これをビジネスに置き換えると、顧客から得た情報からその市場での競合他社の狙いが見えてきて、会社としての戦略立案に使用するための情報になっていく感じです。

情報業務のサイクル

指揮官が情報要求を出して、状況判断に使うまでの一連の業務サイクルは、以下の図の通りです。

情報要求

指揮官は状況判断のために情報を要求しますが、要求する情報には「情報主要素」と「その他の情報要求」の2種類があります。
情報主要素は、任務達成のために必要とする最も優先度の高い情報要求で、この情報主要素以外が「その他の情報要求」となります。
これは状況判断の思考過程の中から案出されます。
(参考:陸自のリーダーシップ 指揮官の最も重要は仕事は状況判断と決心
ちなみに、陸上自衛隊では情報主要素をEEI(Essential Elements of Information)、その他の情報要求をOIR(Other Intelligence Requirement)と呼んでいます。
おそらく、米軍から来た用語でしょう。
余談ですが、陸上自衛隊では普段の勤務でも、「おい、課長のEEIはなんだっけ?」と普通に使っています。
何を情報要求として出すかは、収集できる時間と手段を考慮して、その必要性と可能性を比較検討して厳選するように留意して下さい。

収集努力の指向と情報収集

情報要求が出されたら、関連する情報を取りに行く(収集する)のが次の段階になりますが、情報収集手段や時間が限られているのが常です。
なので、「どこでその情報が収集できるか」をよく考えて、そこに収集努力を指向することが大事。
収集する手段は、自衛隊の場合だと人や部隊、各種センサーになりますが、これを一つの方針のもと、組織化して運用しないと、狙った情報を取ることは難しいです。
情報の中で、一見重要ではないこと、敵を発見しないこと、状況に変化がないことも重要な意義を持つことがあるので、全てもれなく報告させます。

情報の処理と使用

収集した情報は、その使用目的に照らして評価し、価値を判定します。
そして情報処理として、断片的なものを繋ぎ合わせて、状況判断のために意味あるものへと仕上げていきます。
ここで注意しなければならないのは、一度処理した情報も継続的に評価判定すると言うこと。
また、先入観や根拠のない想像は排除しなければなりませんし、敵の欺騙にも注意が必要です。
これらは「こうすればいいよ」と言うものがなかなかないのが難しいところ。
処理してEEIとOIRに整理された情報を指揮官に配布し、状況判断に使ってもらうことで一連のサイクルは完了し、新たなサイクルが回り始めます。
なお、情報は指揮官のみならず、関係する幕僚(スタッフ)や部隊にも配布して共有しますが、よく言われる情報の原則「Need to know」(知る必要のある人にだけ)を忘れずに。

皆さんの参考になれば幸いです。

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