幕僚とはどんな人? 幕僚に必要な能力とは?
目次
幕僚のお仕事とは
戦争モノのテレビや映画で、「参謀」と呼ばれる人が登場します。
だいたい悪役なことが多いように感じますが(笑)、この人を現代の自衛隊用語に変換すると「幕僚」になります。
幹部自衛官の仕事は大きく分けて、「指揮官職」と「幕僚職」がありますが、幹部候補生学校を卒業してから定年退職までの約80%は幕僚職と言われています。
だって、指揮官(commander)と言われる職務は、中隊長、大隊長、連隊長、旅団長、師団長、方面総監、陸上総隊司令官くらいしかないので。
つまり、大半の幹部自衛官は指揮官ではなく「幕僚」ということですね。
では、その「幕僚」とは何をする人達なのでしょうか?
指揮官のブレーンとして補佐
ここからの説明は、陸上自衛隊の幕僚向けの教科書、「野外幕僚勤務(通称バッキン)」の記述に沿って行います。
これは野外令と同様に、一般の方は入手できませんが、国会図書館で昭和43年版を閲覧することはできます。
随分古いやつだな〜と思われたかも知れませんが、その原則的事項はほとんど変わっていないので、機会があれば一読することをオススメします。
前置きが長くなってしまいましたが、幕僚とは「指揮官を補佐する人」を指します。
指揮官は以前の記事で書いた通り、唯一の意思決定権者。
(その時の記事はこちら→「管理職必見! 陸自のリーダーシップ 指揮官とは? その権限と責任、必要な心得」)
その意思決定をサポートするのが、幕僚の主なお仕事です。
なので、幕僚には指揮権や決定権はありませんし、そもそものお仕事の根源は指揮官にあります。
ここが映画によく出てくる、陰謀にまみれた参謀(幕僚)とは大きく違うところですね。
指揮官の権限を委任されることもありますが・・・
ただ、指揮官が決心しなければならい事項は膨大で、組織が大きくなるほど複雑さと量は増していきます。
この全てが重大なものかというと、そうでもなく、定例行事の実行や、規則通りに業務を処置することの伺いなど、些末(さまつ)なものも多数含まれます。
これを全部指揮官が決定していたら、指揮官として時間を割いて考えなければいけない事が等閑になり、大局を見失ってしまうかも知れませんよね。
だから、この手の些末なものの決定は、幕僚に委任されることもあります。
ただし、以前の記事にも書いた通り、この場合でも指揮官が責任を免れることはありません。
だから幕僚は、指揮官の頭で物事を考えて判断しなればなりません。
幕僚に必要な能力
幕僚は、いわば指揮官のブレーンですので、それ相応の能力が求められます。
野外幕僚勤務によると、次の能力が必要だとされています。
- 識能
- 責任感
- 実行力
- 誠実及び謙虚
- 総合判断力
- 思考力及び表現力
- 信念及び協調性
- 創造力、企画力及び組織力
以下、一つづつ見ていきましょう。
識能
これは「知識」と「能力」を一つにした造語です。
幕僚は戦術、戦略など、業務に関係のある様々な分野の知識と能力を備え、これを日々の仕事に反映させていくことが大事です。
戦術や戦略は原則的なことだけではなく、実際の適用例や最新事情をキャッチアップしていく必要があるので、継続的に勉強する必要があります。
志高い幹部自衛官は皆勉強家ですよ。
責任感
これは言わずもがな、だと思います。
でも、「指揮官と共に責任を取っていく」という、普通よりも強い責任感が必要とされます。
実行力
これも、社会人なら誰でも必要とされますよね。
ただ、ミリタリーの場合は、劣悪な環境下でも実行できる、気力と体力も兼ね備えておかなければなりません。
誠実及び謙虚
幕僚は指揮官の考えを具体化し、これを実現するために関係部署や部隊と調整し、実行に移していくことが多いです。
だから、指揮官に対して誠実かつ積極的に仕え、部隊及び同僚に対して謙虚かつ奉仕的に接して、指揮官をはじめ全部隊に信頼され、そして期待に応えていかなければなりません。
「あいつは指揮官を悪用しているのか?」とか「部隊の実情を理解していないのでは?」と思われたらアウト。
映画に出てくるような、指揮官や部下を欺き、策に溺れるようなタイプは幕僚失格です。
個人的には一番大事な要素だと思います。
総合判断力
現状を的確に把握し、将来の推移を洞察して、各種事象を総合的に判断する能力のことです。
これも何となく分かりますよね。
思考力及び表現力
論理的かつ分析的に思考する能力。
これが必要だということは理解できるかと思いますが、一番大事なのは、簡潔に、そして明確に表現できることです。
どんなに素晴らしいアイデアも、人に理解されなければ何の意味もありません。
超多忙な指揮官に対し、限られた時間で正しく理解してもらうための表現力。
例えば、プレゼンで文字ばかりのスライドを多数作っていたのでは、情報量が多すぎて理解するまでに時間がかかりますよね。
複雑かつ膨大な情報を簡潔にまとめて表現する能力。
これに長けた人が、素晴らしい幕僚と言えるでしょう。
信念及び協調性
幕僚は自分の考えよりも、指揮官の考えや判断に基づいて仕事をすることがほとんどです。
これって人によって全く魅力ないかも知れませんね。
だからこそ、自分の仕事に対して、「俺がやらねば」という確固たる信念がなければやっていけません。
また、独善に陥ることなく協調性を持って、組織の一員として活動できることも必須の要素です。
創造力、企画力および組織力
最後に3つ畳み掛けてきました(笑)。
ミリタリーのオペレーションでは、極めて困難な状況に直面することが常です。
だからこそ、これを解決するための方策を導き出せる「創造力」が求められます。
そして、導き出した方策を実行に移す企画力と組織力も不可欠です。
高い創造力を維持するためには、日々フレッシュでなければなりません。
惰性的な仕事に慣れてしまうと、思考力が定型化・硬直化してしまいます。
こうなってしまうと、状況の変化があった時に思考停止の状態に陥り、難局打開の意欲がなくなってしまいます。
普段の業務でも気をつけたいところですね。
以上、幕僚に必要な能力を見てきました。
次回の記事では、幕僚の心得について書きたいと思います。
皆さんの参考になれば幸いです。