陸自の戦術:攻撃編(その2) 正面からの攻撃は最終手段 迂回・包囲・突破について

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攻撃編(その1)では、「攻撃とは何か」、「攻撃の重要な要素は何か」について解説しました。
(参考:陸自の戦術:攻撃編(その1)
今回は、実際に攻撃する場合にどのようなやり方があるのかについて解説したいと思います。
今回も陸上自衛隊の教範(教科書)である、野外令の記述に沿って解説します。
この本は一般には販売されていませんが、国会図書館で昭和43年版を閲覧することができます。

攻撃の方式

正しくは、「攻撃機動の方式」」と言います。
皆さんは「攻撃」と言われると、「相手の正面から勇猛果敢に挑む」的な様相をイメージするのではないでしょうか。
これは間違いではありませんが、攻撃には迂回、包囲、突破という3つのやり方があります。
それを一つづつ解説しますね。

迂回

日常生活で「迂回」という言葉を使う場面は、例えば「高速道路が渋滞しているから、一般道から迂回する」のような時ですね。
そのイメージでだいたい合っているのですが、戦術行動の「迂回」の場合は、単に「回り道をする」という意味だけはありません。
野外令にはざっくり以下のように記述されています。

迂回は、敵の準備した地域を避けてその後方に進出し、敵の準備しない地域で決戦を求めこれを撃破する。

つまり、相手が「よし来い!」と構えている場所を避けて、その後ろにある場所に行き、そこに相手を誘き寄せて攻撃を加えて撃破する、ということです。
これを図にすると、こんな感じです。


この中で大事なのは、「敵の準備しない地域」が相手と自分にとって重要な意味を持つ場所である必要があります。
野外令には、

敵が準備した地域を放棄するか、(敵の)主力の転用を余儀なくさせるような緊要地形(重要な地形)が目標

と記述されています。
そりゃそうですよね。
じゃないと、自分だけそこにポツンといることになっちゃいますよね。
これを企業に例えると、「地域」は「市場」と読み替えることができると思います。
つまり、競合他社が盤石の態勢を整えている市場を避けて、そことは別の、双方にとって重要で、且つ競合の態勢不十分な市場にこちらの営業力を投入。
競合他社が慌てて主戦場を変えてきても、すでに手遅れの状態にしておき、相手に無駄な資源を使わせて両方の市場からの撤退を余儀なくさせる。
そんなイメージです。
ちなみに、迂回が成立するような場面って、どんな場合でしょうか?
相手もバカではないので、後方に重要な地域があることは分かっているはずです。
それでも、「準備していない地域」になってしまうのは、手当てをする時間的余裕がなかったとか、相手の進出が予想に反して早過ぎた、などの特殊な事情がない限り起こり得ないですね。
逆に攻撃する側は、そんな特殊な状況が起きていないか、しっかり情報収集する必要があります。

ただ、もし迂回が成立すればかなりの戦果が得られるので、攻撃方法を考える際に、真っ先にその可能性を追求することが大事です。

包囲

包囲と言われれば、刑事ドラマとかで警察が犯人に「君は包囲されている。おとなしく出てきなさい。」と呼びかけるシーンが思い浮かびます。
相手の拠点をぐるっと取り囲んでいるイメージですが、攻撃における包囲はちょっと違います。
野外令には、

敵を正面に拘束し、主力をもって敵の側背を攻撃して、敵を戦場に捕捉撃滅する。

と記載されています。
ここで大事なことは、「相手が準備した戦場で戦う」ということです。
これが「迂回」と大きく異なる点ですね。
イメージは下図の通り。

攻撃側の主力の攻撃目標は、「敵の退路を制するような緊要地形」になります。
この包囲を企業活動に例えるとすれば、競合が着々と席巻しつつある市場の中で、ある重要な分野が未開拓の状態にあり、そこをこちらの努力の大半を割いて取りに行きます。一方で、一部を持って正面から仕掛けるような素振りを見せて、相手をそこに拘束して身動きできない状況にし、その間に市場の中での支配地域を広げて、最終的に競合を撤退させる。
という感じですね。

これも迂回と同様に、相手が戦場に進出して間もない時など、十分の手当ができなかった場合のような特殊な条件下でしか起こり得ないものです。
しかし、相手の虚を衝く攻撃なので、こちらが有利に戦況を進展させられます。
なので、もし迂回ができなかった場合は、包囲の可能性がないか検討する必要があります。

突破

「突破」という言葉のイメージは、難しい局面をなんとか凌いで目的を達成するような感じではないでしょうか。
これは正解です。
「迂回もできない、包囲もできない」という時の最後の選択肢が、相手の正面から攻撃を仕掛ける「突破」になります。
野外令には、

主力を持って敵部隊の正面から突破分断し、各個撃破を容易にする。

と書かれています。
後半部分の「突破分断し、各個撃破」とは、相手の防御組織をバラバラにして、個別に潰していくということです。
イメージは下図の通り。

突破は最終手段だけに、最も難しい攻撃になります。
なので、「突破正面における圧倒的に優勢な戦闘力の保持と、攻撃衝力の持続が成功の要件」とされています。
ちなみに、ガッチリ防御している敵を撃破するためには、攻撃側は防御している敵の3倍の戦力が必要と言われています。
突破は、①突破口の形成、②突破口の拡大、③突破目標の占領、の3段階で完成します。
企業に例えるなら、相手の強点に対して十分な戦力を投入し、市場参入の余地ができたらそれを拡大し、最終的に市場を支配する分野から競合を撤退させる、という感じでしょうか。
余談ですが、陸上自衛隊には幹部向けの教育課程がいくつかありますが、戦術教育で攻撃を教えるときは、もっぱら突破を題材にしています。それだけ難しい行動だということです。

まとめ

攻撃においては、まず迂回の可能性を追求し、それができない時は包囲を検討し、それもダメな時は相手の正面から突破を図るという思考過程になります。
全てに共通していているのは、いずれの行動が成り立つかを検討するために必要な情報収集と、「今が戦機」と判断したら果敢に行動するということです。

次回は、攻撃計画の立て方について解説します。

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