令和5年度以降は富士総合火力演習の一般公開は中止〜陸上自衛隊は本気で「戦う」ことを考え始めた!

令和5年度以降はライブ配信へ

3月31日の産経新聞のサイトに、「陸自の富士総合火力演習、令和5年度以降は一般公開せず」とのニュースが掲載されていました。
元ネタは、陸上自衛隊のホームページに記載されていた以下のプレスリリースです。

令和5年度以降の富士総合火力演習については、我が国を取り巻く安全保障環境がますます厳しく複雑になる中、防衛力を抜本的に強化していく必要があることを踏まえ、部隊の人的資源を本来の目的である教育訓練に注力するため一般公開を行わないことといたしました。 

出典:陸上自衛隊ホームページ「令和5年度富士総合火力演習について」

ネットの書き込みには、否定的な意見がちらほら見受けられました。
でも、僕は個人的には素晴らしい決断だと思います。
「ああ、ついに陸上自衛隊が本来の任務に立ち返り、本気で”戦う”ということを考え始めたな」と。

そもそも富士総合火力演習とは?

富士総合火力演習は、富士学校の学生に火力戦闘の様相を認識させることを目的に、1961年に開始されました。
つまり、もともとは学生教育のための演習だったのです。
しかし、「国民の皆様に陸上自衛隊への理解を深めて頂く」ということで、1966年から一般公開が始まりました。
でも、教育目的が大前提であることには変わりはなかったはずです。
ところが・・・

主たる目的を逸脱、過剰なオモテナシを伴う壮大な「ショー」と化す

オモテナシのために隊員を大量投入、準備期間中は学校教育にも制約

一般公開が始まり、演習への関心が高まるにつれ、来場者数もどんどん増えていきます。
コロナ禍の前にはその数は3万人弱にまで達するようになりました。
そうなると何が起きるのか?
「国民の理解=見に来たお客さんに満足して頂く」が暗黙の了解となり、快適に楽しんで頂くための対策があれこれと成されるようになったのです。
例えば、車で来場する方のための誘導員。
僕も今から20数年前、富士学校で教官をしていた頃に駐車場誘導員として演習に参加しましたが、数日前から演習場内の駐車場周辺の未舗装路の整備(お客さんの靴が汚れないように、水たまりを砂利で埋めるとか)、駐車場地区のライン引きなどがあり、総合予行を含む一般公開の日は、朝3時頃から配置につき、夜は全車両が出て行くまで車両誘導。
各駐車場に「◯◯駐車場支援グループ」のようなものを編成していましたが、その中味は1尉〜2佐くらいの学校教官。
誘導員は演習場外の主要な道路の交差点などにも配置していたので、土日とはいえ、学校教育のための資源が総合火力演習に割かれていたことが分かるかと思います。

それ以外にも、お客さんの案内係、客席スタンド設置係、埃を被ったり濡れたりしたベンチ席を拭く係、駐車場から射場までの未舗装路の整備係、お客さんに見やすいように巨大モニターを設置する係など、過剰なまでのオモテナシのために、近隣部隊からも応援を呼んで対応したりしていました。

また、総合火力演習を行う畑岡射場とその周辺は、演習準備が最優先となるので、約1ヶ月ほど学生教育のためであっても思うように使えないという制約もありましたね。

実戦では役に立たない曲芸まで

お客さんを喜ばせることが第一になってしまうと、ただ射撃を見せるだけではダメだと思ったようで。
なんと、「砲弾の空中破裂で富士山を描く」という曲芸までやるようになってしまいました。
僕は初めてそれを見た時、「なんじゃこりゃ?!」と心の底から恥ずかしく思いました。
よくこんな射撃をすることを許可したな、と。
学生に火力戦闘の様相を認識させるという目的は何処へやら、もはや陸自の装備を使った壮大なショー。
あるいは贅沢な花火大会。
陸自の射撃技術の高さを見せることが目的だったようですが、あんな射撃を実戦で行うことは決してないと思います。
例えるなら、複数のサッカーボールを使って頭や両足で交互にリフティングする芸をやるようなもの。
確かに、リフティングの技術は高いかもしれませんが、その芸をやる人がサッカーの日本代表に選ばれるかというと、そんなことはないですよね。
それと同じです。
ついに陸自も芸能に手を出した・・・
そんな印象でした。
さすがにここ最近はやっていないようですが、また一般公開となると、同じような曲芸に走る可能性も無きにしも非ず。

迫力よりも、より現実的な演習になることを期待

カーテンコールはいらない

一般公開がなくなったことで、これまでのような過剰なオモテナシや曲芸のために貴重な資源を割くことは激減すると思います。
これは良いことですが、次に追求してほしいことは、迫力よりも現実性です。
総合火力演習では、火砲をドッカンドッカン射撃して地域を制圧をする場面があり、演習の最後には、対戦車ヘリコプターを含む全ての装備品が射場に集結し、戦車が発煙弾を舞台小道具の蜘蛛の巣のように派手に発射して終了します。
まるで、ミュージカルのカーテンコールのように。
しかし、「こんな迫力を追求した演出もやめた方がいいのでは?」と個人的には思っています。

地味でもリアルに

自衛隊の戦略は南西諸島を重視していますが、もし、そこに敵が侵攻した場合、地上戦はどのようなものになるでしょうか。
あまり自衛隊として言いたくはないかもしれませんが、僕は住民混在下での作戦になると思っています。
特に、有事か平時かの判断が難しいグレーゾーンと呼ばれる事態が続いた場合、住民を避難させるか否か迷っているうちに、急激に事態がエスカレーションする場合もあるでしょう。
そうなると、全住民が事前に避難することは難しく、もしかすると予想以上に多くの住民は島に残っているかもしれません。
そして島に残った住民は、島内で避難しつつも、利用可能な電気、ガス、水道などのインフラを使って生活することも想定されます。
また、島に陸自部隊が無事に上陸できたとしても、離島であるが故、砲弾や燃料の供給などの兵站支援に制約があるかもしれません。
さらには、離島は地積が狭いので射撃位置もすぐバレてしまいます。
なので、「ちょっと射撃してはすぐに陣地変換」を頻繁に繰り返すようになると思います。
これらを考えると、大量の火力を贅沢に指向するよりも、射撃目標以外の破壊を最小限にし、かつ、弾薬の節用もできるように、曲射・直射に関わらず、より精度の高い射撃を、陣地変換を多用しながら散発的に行う方が実際的ではないでしょうか。

これを総合火力演習でやると、とっても地味なものになりますね。
でもリアル。
はたしてこれからはどんな富士総合火力演習になるのか?
注目しましょう!

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