ニュース解説:レオパルドにチャレンジャー、供与された戦車は乗員の訓練だけでは戦力化はできない?!

英国とポーランドがウクライナに戦車を供与

前回の記事でも書きましたが、1月14日、英国はチャレンジャー2をウクライナに供与することを発表しました。
(前回記事→ニュース解説:戦争の報道でいつも感じる違和感〜ジャベリンにHIMARS、「これさえあれば」はありません!
そして今回は、ドイツ政府がレオパルト2を供与すると発表しました。
以下、その抜粋。

ドイツ政府は25日、ウクライナに対してドイツ製の戦車「レオパルト2」を供与すると発表しました。(中略)ドイツ政府はウクライナに向けた「レオパルト2」の2個大隊を速やかに編成することを目標にしていて、その第1段階としてまず、ドイツ軍から14両をウクライナに供与するとしています。

出典:NHKニュースサイト ドイツ政府 ウクライナに戦車「レオパルト2」供与と発表

2個大隊とありますが、おそらく3単位制(3個中隊で1個大隊)と推測すると、供与数は90両弱になろうかと思います。
レオ2に関しては、このほかにもポーランドが14両、カナダが4両(1個小隊分)の供与を発表していますので、ウクライナ軍は全部で100両近くのレオ2を受け取ることになります。

さらには、米国がM1エイブラムスを31両を供与するとのことなので、英国の14両のチャレンジャー2を含めると、ウクライナには151両の旧ソ連製以外の戦車が存在することになります。
もちろん、その数は段階的に増えていくとは思いますが、この戦力化はかなり大変ではないかと想像しています。

乗員の養成から部隊行動までには相応の時間が必要

新しいものを手に入れた時、それを使いこなせるようになるまでには時間がかかりますよね。
それが戦車となるとなおさらのこと。
タイプが異なると、それぞれ違ったシステムを採用しているのが普通なので。
今回供与される3車種に乗ったことはないのですが、FCS(Fire Control System:射撃統制装置)の操作方法はそれぞれ異なり、また、T-72とも随分違うと思うので、その扱いに習熟するまで相応の訓練が必要になると推測しています。
いずれも、T-72と違って装填手が必要になりますし。
特に、チャレンジャー2は分離装薬タイプでありながら、T-72と違って装填手が必要となるので、彼らを一から訓練して養成しなければなりません。
「装填手は弾薬を装填するだけだから、すぐにできるようになるのでは?」と思われるかもしれませんが、激しく動揺する戦車の中で、自分が怪我しないように気をつけながら、スピーディーに指定された弾薬を装填するのはけっこう難しいですよ。

戦車は、その機材の操作に慣れるだけでは運用できるようにはなれません。
乗員整備と故障排除要領も覚える必要があります。
乗員整備とは、乗員による日常的な整備や機材の点検のことで、例えば履帯(キャタピラ)の点検・整備があります。
履帯は履板と呼ばれる金属板をつなぎ合わせたものですが、つなぎ目の隙間や、板をつなぐコネクターの具合を点検し、不具合があれば、まずは乗員でできる範囲の整備をやならなければなりません。
コネクター部分は、打音で状態をチェックしますが、履板の幅や厚みによって音が異なると思うので、T-72との違いをしっかり認識できるよう訓練することも必要ですね。

故障排除に関しては、おそらく乗員用のレファレンスがあって、不具合の状態に応じて調べながらの対処になると思います。
でも、故障するたびにいちいち調べないといけないようではダメです。
また、「どうすればいい」を知っておくだけではなく、「どうやればいい」も体得し、よくある故障の場合は、条件反射的に故障排除ができないと、交戦速度の速い戦車部隊の戦いでは致命的なものになります。
ちなみに、故障排除と真逆の破壊処置についても知っておく必要があります。
これは、万が一敵に戦車が鹵獲されても、戦車として機能しないように大事な部分を壊してしまうことです。
特に訓練が必要というわけではありませんが、「どこをどう壊せばよいか」くらいは知っておかなければなりません。

以上のことは乗員養成のごく一部のことで、乗員を育成し、さらにその戦車を使って部隊行動できるようになるまでには、それなりの時間が必要だということがお分かりいただけたかと思います。

それにしても、搭載される無線機の規格ってどうなんでしょうね。
今までのものが使えるのか、それとも個々の戦車に合わせたものが必要なのか?
いずれの戦車も輸出されているタイプなので、ある程度、規格は統一されているとは思いますが、西側タイプとソ連製では電流や電圧の規格、コネクターの形状、入力する符号(傍受されても雑音になる暗号のようなもの)などが違うかもしれません。
ここも気になるところです。

後方支援体制の確立が戦力化の大きな鍵

戦車の導入というと、どうしても戦車部隊にばかり目がいってしまいがちですが、本当の戦力化の大きな鍵を握るのは、後方支援体制の確立だと思います。

特に戦車の整備に関しては、整備専門部隊がそれぞれの戦車の構造や特性を知り、整備要領を習得しておかなければなりません。
今回供与される戦車のバージョンは分かりませんが、やや時代遅れのモデルでも、それぞれコンピューター化された部分が多く、また、エンジンやトランスミッションなどを一体化したパワーパックも構造が異なり、複雑である可能性があります。
整備部隊の整備員は、T-72のほかに、1〜2車種の西側戦車の構造や整備要領を習得するようになるのではないでしょうか。
動力系以外でも、複雑な電気系統や無線機、砲身と閉鎖機、懸架装置など、覚えるべき整備要領は多岐にわたります。

また、安定稼働のための部品の供給も重要です。
部品生産国からウクライナにある補給処まで、そして補給処から第一線の整備部隊までのサプライチェーンの確立には、部品管理と輸送という、簡単そうで難しい課題を克服する必要があります。
なんといっても部品の数が膨大なので。
在庫管理はもちろんですが、「何がいくつ、今どこに向かっているのか?」という流通管理も必要で、もちろん需給予測も重要となってきます。

以上、僕の経験から思いつくことを書いてみました。
今回供与される戦車がゲームチェンジャーになる日はいつ頃になるのか?
注目していきましょう!

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