目標の設定には任務分析〜与えられた任務から達成すべき目標を明らかにする手順(その1)

達成すべき目標を明らかにするプロセス

みなさん、会社で所属する部門の目標をどうやって設定していますか?
また、社員であれば、上半期と下半期に個人の目標を設定し、その達成度を自己評価することもあるでしょう。
この「目標」の設定には、3C分析を使ったり、SWOT分析を使うこともあると思いますが、ミリタリーの任務分析の手法も使えるツール。
任務分析は本来、作戦を考えるときに、その作戦で達成すべき目標を案出するために行うものですが、陸上自衛隊の中では、個人やグループの業務上の目標設定などにも幅広く応用されています。
3C分析やSWOT分析と似ている部分もあるので、もしかしたら馴染みやすいかもしれません。
と言うわけで、今回はこの「任務分析」について紹介します。

任務分析の目的は、達成すべき目標を明らかにすることで、そのプロセスは以下の通りです。
(括弧内は一般的なものに置き換えた場合)

  1. 任務から自己又は組織の地位と役割を明確化
  2. 上記を踏まえ状況の特質を考察
    1. 任務上の特質
    2. 地形(与えられた土俵)の特質
    3. 敵(競合)の特質
    4. 我(自社)の特質
    5. 相対戦闘力(自社の強み、弱みに置き換えてもいいと思います。)
    6. 時間的要素(マイルストンでもOKです。)
  3. 達成すべき目標
    ※2つ以上ある場合は、以下のように区分します。
    1. 必ず達成すべき目標
    2. 達成することが望ましい目標

今回の記事では、一般的なミリタリーの要素でこのプロセスを辿りつつ、「会社ではこんなふうに言えるのでは?」という身近な事例に置き換えながら、皆さんの理解を深めて頂こうと思っています。

年収450万円から始める不動産投資【グランアネスト】

与えられた任務における自分の地位と役割を明確化

任務が与えられた時、「あなたはその任務の中でどんなポジションにあって、何を期待されているのですか?」を明らかにしなければなりません。
でも、何か例がないとよく分からないと思うので、一例として師団が敵を攻撃する場面を想定します。
そして上級部隊である方面隊から、「A丘陵で陣地構築中の敵を撃破して、4日後に進出する方面隊主力の攻勢を容易にせよ。」と言う任務が与えられたと仮定します。
任務をサラッと読み解くと、主力よりも先に現地に行って、敵を撃破しておかなければならないことが読み取れますね。
そして、単独で行動することも読み取れます。
一緒に行動する部隊があれば、「◯◯部隊と協同し」と言う一文が入るからです。
以上を総括すると、地位と役割は次のようになります。

・地位:主力に先立ち独立的に行動する部隊
・役割:方面隊主力の攻勢の容易化

※部隊編制の単位で、地域的又は時間的に独立的に行動できる最小の作戦単位部隊。陸上自衛隊の場合は、歩兵である普通科連隊、戦車部隊、砲兵である特科部隊などで構成されている。

会社に置き換えてみる

この地位と役割を踏まえ、具体的に何を達成すれば「任務達成」となるのかを、この後のプロセスで考察します。
が、ここまでを会社員に置き換えてみましょう。
まず、想定する社員を某社営業部のA課長としてみます。
A課長の部下にはベテランのB課長補佐、入社7年目のC主任(担当エリア内に居住)、入社1年目のD社員がいます。
A課長には定まった顧客はおらず、新規顧客の開拓をメインに営業活動を行なっています。
上司である部長からは、「営業部全体として、今年度の目標は営業利益2億円以上」とだけ伝えられていたとします。
営業部にはA課長以外にも、E課長率いる営業部隊があり、既存の顧客から毎年1億円程度の営業利益をコンスタントに上げており、今年度はさらに1.5倍程度の受注増大が見込めるイベントが控えています。
このような環境にあるA課長率いる営業部隊の地位と役割は、次のように整理できると思います。

・地位:新規顧客開拓に任ずる営業部隊
・役割:営業部の目標である2億円以上の営業利益に貢献

この段階では、まだ何をすれば任務達成となるか漠然とした感があるので、これを「状況の特質」を捉えながら具体化していきます。

状況の特質を把握

任務上の特質

ここでは、任務から何が言えるのかを明らかにします。
まず、ミリタリーの場合の任務上の特質について。
任務は「A丘陵の敵を撃破」して「4日後の進出する方面隊主力の攻勢を容易化」に区分されます。
ここから分かることは、「4日後まで」と期限は明確ですが、「方面隊主力の攻勢の容易化」の部分は「何をすれば容易化したことになるのか?」を考えなければなりません。
攻勢は攻撃主体の作戦行動ですので、師団が敵を撃破した後、その師団を超越してさらにその先の敵まで攻撃することが想定されます。
この場合、方面隊は通常、①「師団の掩護下に作戦地域に集結」、②「師団を超越して敵地に進出し攻撃行動開始」の2つの段階があります。
なので、「方面隊主力の攻勢の容易化」には集結の掩護〜進出の掩護まで幅がある任務と言えるでしょう。
また、師団が敵を撃破した直後には、敵主力の反撃もあり得ることから、攻撃が終わったらすぐに防御準備をしなければならかったりするので、けっこうタイトなスケジュールです。
以上まとめると、任務上の特質は、「幅のある包括的な任務で急ぐ攻撃」と言えます。
しかし、「集結の掩護」は必至であることが分かりますね。

会社に置き換えると・・・

任務は「営業部全体で今年度は2億円以上の営業利益」ですので、「年度内」という期限以外、A課長の任務はかなり漠然としています。
また、「新規顧客を開拓して年度内にその顧客から受注」は、顧客との信頼関係の構築を考慮すると、時間的には厳しいといえます。
以上をまとめると、任務上は「時間的に厳しく漠然とした任務」と言えるとかと思います。
しかし、E課長の営業部隊が安定的に1億程度の利益を上げており、今年度は1.5億程度の利益が見込まれることから、A課長は0.5億円程度の営業利益が必達と言えるでしょう。

地形上の特質

ここでは、師団がこれから戦う場所(戦場)の地形的な特質を明らかにします。
該当するのは、敵が陣地を構築している地域となります。
実際は地図を見ながら考えるのですが、そこまでやるとマニアックになりすぎるので、今回は大体どんなことがアウトプットになるのかだけイメージを持ってもらえれば。
まず戦場を概観し、その地域が師団の勢力に比べて適正な広さかどうか、山地の度合い、河川や崖などの障害、部隊が前進するために適する経路などを列挙し、「攻撃」と言うフィルターを通して地形の特質をあぶり出します。
例えば「〇〇丘を押さえれば、方面隊主力の集結地が敵の砲撃の射程外になる」とか、「××丘を押さえれば、さらに方面隊主力の攻撃を支援できる」とか、「そこに行くにはA道とB道があって、A道沿いは戦車部隊の前進に適した、広くて平坦な地形」といった感じで把握していきます。
今回は、「道路網が整備された平坦な地形で、戦車戦力の発揮に適した地形」ということにしておきます。

会社に置き換えると・・・

戦場を「市場」とか、「担当エリア」に置き換えてみましょう。
市場を概観した場合、例えば「同種の製品が出回っており、飽和状態にあり新たな開拓が難しい」とか、「この分野にはホワイトスペースがある」とかがあるかもしれません。
「担当エリア」であれば、「エリアが広大で新規顧客の開拓には時間が必要」とか、「繁華街は他社が席巻」のようなことを明らかにできればOKではないでしょうか。

敵の特質

師団の主敵である陣地構築中の敵部隊の特質を見ていきますが、特に編成・装備上の観点がメインとなります。
敵を偵察した結果から、「戦車部隊が多く機動打撃力があるが、陣地防御には向いていない。」とか、「砲兵部隊が増強されているので、遠距離から防御戦闘を仕掛けてくる。」といった特質が導き出されることが多いです。
今回は、固有の編成で砲兵や戦車の増強はなく、また、陣地構築のための工兵や機械力の増強もされていないことにしておきます。

※詳しくは「陸自の戦術:防御編(その2)守るだけじゃなく攻撃することも?防御の方式と計画の立て方」参照

会社に置き換えると・・・

ここはそれほど難しくないと思います。
3C分析やSWOT分析でやる競合の分析に近いので。
中でも、3Cであれば競合の特徴、SWOTであれば競合の状況の部分を重視してやるイメージです。
まずはその手法でやってみても大丈夫だと思いますが、アウトプットとしては、「どんな行動をするのに適しているのか?」や、「何を最も得意とするか?」を明らかにできれば良いと思います。

我の特質

我の特質では、自分の師団の特質を考えます。
ここでも、編成・装備上の視点がメインとなり、アウトプットは「敵の特質」と同じような感じです。
今回は「戦車部隊が増強されており、機動を発揮した迅速な攻撃に適する編成」ということにしておきます。

会社に置き換えると・・・

ここも、3C分析やSWOT分析での「自社分析」と同じ、で大丈夫です。
ただ、せっかくなので、E課長の営業部隊や自分の配下の社員の特質も加味しましょう。
例えば、「E課長の部隊は最低1億円、いければ1.5億円の利益が上げられる状況にある。」とか、配下の社員であれば「C主任は担当エリアに居住しており、地元の〇〇業界の方々と交流があるため情報収集ができ、攻めどころを明確にすることが可能」といったところです。
これを把握しておけば、達成すべき目標の具体化と、その実行の可否を検討することができるようになります。

次回は「達成すべき目標」を案出

だいぶ長くなってしまったので、今回はここでいったん終了とします。
次回はこの続きでとなる、相対戦闘力、時間的要素まで特質を明らかにした後、今回明らかとなった特質と合わせて具体的に達成すべき目標を導き出したいと思います。

目標の設定には任務分析〜与えられた任務から達成すべき目標を明らかにする手順(その1)” に対して4件のコメントがあります。

  1. REX より:

    即応予備自衛官です。
    前回の訓練でCOP(戦闘前哨)について教育を受けました。
    その中で分からないことがあり、家に帰宅後いろいろ調べていたところここにたどり着きました。
    疑問が解決して嬉しいです!
    今後も応援しております!

    1. militac-san より:

      REX様
      お役に立てて嬉しいです。
      今後も何か戦術や教範事項で知りたいことがあれば是非リクエストして下さい!

  2. TT より:

    はじめまして。
    勉強にさせていただいてます。
    質問がありまして、防御における適用適地とは具体的に何でしょうか?本を読んでも細部が分からないです。
    よろしくお願いします。

    1. militac-san より:

      コメントありがとうございます。
      「適用適地」の記述があった箇所をご教示頂けますでしょうか。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です