目標の設定には任務分析〜与えられた任務から達成すべき目標を明らかにする手順(その2)

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前回のおさらい

前回の記事「目標の設定には任務分析〜与えられた任務から達成すべき目標を明らかにする手順(その1)」では、任務の中において占める地位と役割を明らかにした後に、状況の特質として、①任務上の特質、②地形の特質、③敵の特質、④我の特質まで把握しました。
今回はその続きで、状況の特質の残りの部分である、⑤相対戦闘力、⑥時間的要素(戦況推移)を把握したのち、一連の要素を踏まえ、達成すべき目標を導き出すまでをやっていこうと思います。

状況の特質を把握

相対戦闘力

ここでは、敵と我の戦闘力を比較します。
陸上戦力の場合は、歩兵戦闘力(砲迫火力)と、戦車を主体とする機甲戦闘力が大きな要素ですので、この2つの項目で比較することが一般的です。
一例を挙げると以下のようになります。

歩兵戦力 敵:我=1:2.5
機甲戦力 敵:我=1:3

今回、こちらが攻撃する想定ですので、攻撃側は相手の3倍程度の戦力を持っていることにしました。
この戦力比を見ると、機甲戦力を発揮するのに適した編成だと言えます。
つまり、戦車の突進力を使って迅速に攻撃目標に到達できるという特性があるので、急ぐ攻撃が可能です。
ちなみに、歩兵戦力の発揮に優れている場合は、砲兵の観測点となる戦場の要所を、一つ一つ確保しながらの戦い方になります。
こちらの場合は、敵の砲迫火力の脅威を確実に排除できるので、方面隊主力の集結をより確実に掩護できるという特性がある反面、攻撃進展が遅いという欠点もあります。
機甲戦力、歩兵戦力のいずれかが主体の戦い方になっても、様々な処置・対策を検討して、任務を達成できるようにするのですが、今回その説明は省略します。

会社に置き換えると・・・

競合と比較して、自分の会社や営業チームが、「何に優れているか?」を明らかにすればOKです。
ここで大事なことは、必ず計数的に把握すること。
例えば、「当社の某サービスは競合に比し、顧客満足度で3倍優れている。」とか、「担当エリア内で、〇〇という商品の売上は、競合の同種製品の60%」のように。
競合の営業チームの編成が分かっていれば、担当エリアの経験年数を競合と比較する手もあります。
いずれにせよ、ここでは競合と比較した結果を数値化(見える化)して、「何に尖っているのか?」を明確にするよう心がけて下さい。

時間的様相(戦況推移)

敵と我の行動をグラフ図にして、戦闘の流れを把握します。
一例は以下の図のようになります。

このグラフの縦軸は戦力比、横軸は時間を表しています。
図にすることで、敵と我の戦力比の時間的推移と、「いつ頃までに何を」が明らかになります。
敵は1.5日の防御準備の後に2日間以上の防御戦闘となりますが、通常、「防御準備日数≧防御戦闘日数」で妥当と判断するので、今回の敵はやや厳しい状況にあります。
敵主力の進出もD+3日後であり、かつ、工兵や機械力も増強されていないことから、主力の進出まで持ち堪えられない可能性があります。
一方、我は2日間攻撃した後、約1日の防御準備を行って、方面隊主力の集結掩護のための、最低1日は防御戦闘をする必要があることが分かります。
方面隊主力の戦闘加入まで、防御が持ち堪えればさらに◯ですが、苦しい場合は方面隊の一部の部隊と交代することも可能です。
ちなみに、今回は分かりやすくするために、こちらが有利となるよう設定にしていますが、本来は敵と我の双方に勝ち目があり、お互いに厳しい点があるのが普通です。

会社に置き換えると・・・

最終的に年度の売り上げが計上される時期を基準に、年間のマイルストーンを置いてみて、さらに自社と他社、担当エリアや市場の主要なイベントを並べてみると、競合が優位な時期とか、「いつまでに、何を」が見えてくるかと思います。
例えば、「一般的に冬には売り上げが伸び悩む商品なので、10月までに目標の8割程度の売り上げ達成」とか、「次年度から新たな法律が施行され、その直前に駆け込み需要が見込まれることから、1月以降の売り上げ増を見越して8月〜12月までは営業の仕込みを活発化」など。
最初はよく分からないと思うので、デッドラインを決めた後は思いつく限りのイベントやマイルストーンを並べてみて、少しずつ整理してみれば良いかと思います。

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達成すべき目標

目標は理想ではなく、達成可能なものでなければなりません。
目標を導き出す前に、これまで分析してきたことをもう一度おさらいしてみましょう。

◯地位と役割:独立的に行動、方面隊主力の攻勢を容易化
◯状況の特質
・任務上:タイトなスケジュール(急ぐ攻撃)、最低限は集結掩護、できれば進出掩護まで幅あり
・地形上:戦車戦力の発揮に適した地形で急ぐ攻撃が可能
・敵:固有の編成なので定型に近い行動になる可能性大
・我:戦車部隊が増強されており急ぐ攻撃が可能
・相対戦闘力:戦車戦力がこちらの勝ち目
・戦況推移:D+2日までに敵を撃破して最低限D+4日まで敵を阻止
      敵は防御準備日数よりも長い戦闘を強いられ厳しい状況

要素しては、①単独で、②D+2日までに敵を撃破、③集結掩護はマスト、が挙げられます。
そして、敵は「準備期間が短く、戦力が増強されていない」という厳しい状況。
このことから、頑張って早く攻撃を終わらせれば、進出掩護までできる可能性が導き出されます。
以上を総合すると、達成すべき目標は以下のようになります・

  • 必ず達成すべき目標:D+2日までに敵を撃破して方面隊主力の集結を掩護
  • 達成することが望ましい目標:努めて早期に敵を撃破して方面隊主力の進出を掩護

いずれの目標も達成可能であり、方面隊から期待されていることを満たすことができます。
つまり、「任務達成」となる訳です。

会社に置き換えてみると・・・

ここはぜひご自身で導き出してみて下さい。
任務分析の各項目を埋めていけば、自ずと達成すべき目標が見えてくるはずです。
目標が明らかになれば、あとは行動計画を作って実際に動くのみ。
必ず成果が得られるでしょう!

まとめ

2回にわたって任務分析を解説しました。
文字にすると、すごく壮大な検討になりそうな印象を受けますが、陸上自衛隊ではT・P・Oに応じてサラッとやる場合もあれば、しっかり時間をかけて行う場合もあります。
大事なのは、任務分析の目的である「達成すべき目標」を明らかにするために、各項目の要点を明確にしていくことです。
ぜひ一度、会社やご自身で取り組んでみてはいかがでしょうか。

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目標の設定には任務分析〜与えられた任務から達成すべき目標を明らかにする手順(その2)” に対して10件のコメントがあります。

  1. 鈴木 より:

    説明してくださって、ありがとうございます。市販の本に書いてある任務分析より格段に参考になりました。目標を作る際の参考にさせていただきます。

    1. militac-san より:

      コメントありがとうございます。ご参考になったとのことで嬉しいです!

  2. 鈴木 より:

    お世話になります。鈴木と申します。

    目標を決めた後に選択肢を出すための「判断事項」をきめると思うのですが、
    それは、状況の特質から考えるのでしょうか?
    「D+2日までに敵を撃破して最低限D+4日まで敵を阻止」するためにどうしようか?
    など。

    それとも、情報見積もり https://militactics.com/intelligence_estimate-2/
    から出すのでしょうか?教えていただきたいです。

    PS.このページの任務分析で、自分なりの目標を出して、仕事をしたところ、何をするのかが明確になりました。今までよりも自分で考えて動けるようになり、仕事がしやすいです。ありがとうございます。私がやるとどうしても、目標を達成できるかどうかの視点がおろそかになってしまっていますが、、、。

    1. militac-san より:

      鈴木さま
      コメントありがとうございます。目標を達成するためのオプション(選択肢)を出すための判断事項は、まだ記事にしていない「地域見積」で導き出します。
      地域見積は、任務分析の状況の特質で明らかにした「地形の特質」をさらに深掘りし、どんな戦い方ができるかを案出するために行います。
      つまり、戦い方のオプションを決めるための判断事項は、この地域見積にあると言えます。
      今後記事にしますので、その際に詳しく解説したいと思います。

  3. 鈴木 より:

    よろしくお願いいたします。

  4. 鈴木 より:

    ミリたく様

    返信ありがとうございます。鈴木と申します。

    たびたびすみません。。
    達成することが望ましい目標とエンドステートは同じなのでしょうか?
    「自衛隊式セルフコントロール」という本でエンドステートという言葉が出てきたので、気になって質問した次第です。
    その本では「最終的に実現する状況」とありました。

    教えていただけますか?
    よろしくお願いいたします。

  5. ミリたく より:

    鈴木様

    ご質問頂きありがとうございます。
    エンドステートという用語は、一般的には政策とか戦略レベルで使われると認識しています。
    例えば、今のウクライナ戦争でのウクライナ側のエンドステートは、「領土を2013年以前の状態に戻す」と考えられます。そしてこのエンドステートに導くため、領土奪回作戦を実行しており、その中で攻撃や防御といった戦術行動を取っています。
    今回の記事で解説した「達成することが望ましい目標」は、この戦術レベルでの目標となるため、一般的なエンドステートとは異なります。
    言い換えれば、「エンドステートとは、国家の軍事戦略における達成すべき目標」と言えるでしょう。
    もし追加のご質問があればお気軽にどうぞ。

  6. 鈴木 より:

    ミリたく様
    返信ありがとうございました。
    鈴木です。
    エンドステートの件、腑におちました。

    お言葉に甘えさせていただきます。
    追加の質問です。

    「どう戦うべきか?を決める作戦見積〜全ての要因を検討して最良の行動方針を導き出す」
    の記事で行動方針を時系列でシミュレーションをするとありました。
    このとき、時系列の一番最後の行動終了時の状態(=目標を達成した状態=行動方針を完了した状態)を細かに決めてからシミュレーションするのでしょうか?

    作戦見積の記事の例でいうと、
    「O-1:A道沿いに攻撃」なら、行動終了時のオ山を確保した時の状態で、気候、味方や敵の数、装備、配置などを細かに決めてからシミュレーションを行いますか?

    といいますのは、
    必ず達成すべき目標:D+2日までに敵を撃破して方面隊主力の集結を掩護
    達成することが望ましい目標:努めて早期に敵を撃破して方面隊主力の進出を掩護
    だと、最後が具体的にどうなっているかがよくわからないからです。
    (私が軍事の素人だからかもしれませんが、、)

    最後の詳細が決まっていないと途中で何をしなければいけないかがわからないのでは?と思いました。

    別の例で例えるなら、会社で「会議の資料を作って」と上司に言われたとします。
    どんな内容をどんなレイアウトで何ページの資料を作るかのイメージができないと、
    資料を作るシミュレーションができないような気がします。

    時系列の一番最後の行動終了時の状態(=目標を達成した状態=行動方針を完了した状態)を細かに決めてからシミュレーションするのでしょうか?

    よろしくお願いいたします。

    1. militac-san より:

      鈴木様

      なかなか鋭い質問ありがとうございます。
      結論から申し上げますと、「オ山を奪取して防勢転移(攻撃から防御に移行)した後で”何をすべきか”を理解した上でシミュレーションする」になります。
      詳細は決めません。
      なぜなら、攻撃開始前から、最終的にどの部隊をどこに配置し、どこに陣地を作って、どこに障害を構成し、といった詳細を決めることができないからです。
      攻撃中は部隊の損耗もありますし、一方で、予備隊を使わず最後まで温存できる時もあります。
      これをシミュレーションの中で明らかにしつつ、目標を達成する上でどちらの行動方針がより適切かを判断するのです。
      なお、必ず達成すべき目標とした「方面隊主力の集結を掩護」は、方面隊主力の集結が完了するまでオ山を確保し、敵主力の攻撃を阻止し続ける必要があります。しかし、方面隊主力の集結完了後は、方面隊主力が部隊を差し出し、オ山を確保していた部隊と交代させ(これを「その場合交代」と言います)、方面隊主力の前進を掩護させるようになります。
      達成することが望ましい目標の場合は、攻撃を行なった部隊が方面隊主力の集結掩護だけではなく、方面隊主力のさらなる前進を掩護(具体的には射撃支援)する必要があるため、集結掩護に比べて防御時間が長くなり、このため、少しでも多くの防御準備時間を確保する必要があります。
      この集結掩護や進出掩護の意味については、陸上自衛官の場合、戦術の基礎的事項として習うのでイメージはできますが、一般の方にはちょっと難しかったかもしれません。

      ちなみみに、鈴木様が挙げた例である「会議資料を作って」の場合は、作戦見積の前に任務分析が必要かと思います。
      会議の目的、参加する人のレベル(役員がいるのか、ある程度内容を理解している人がいるのか、など)、会議にかけられる時間などから、その会議で達成したい目標を定め、これを上司に報告し了承してもらってからの資料作成(構成や枚数、パワポでプロジェクターを使ってやるのか、机上配布のペーパーか、など)になります。

      ちょっと長くなってしまいましたが、ご理解いただければ幸いです。

  7. 鈴木 より:

    ミリたく様

    鈴木です。

    詳細は決められない件、納得しました。
    ずっと気になっていた点だったので、すっきりしました。

    また、会議の資料の件(だけでなく、すべての案件で)、まず任務分析してみます。

    教えてくださって、ありがとうございました。

    PS.すみません、プラウザの戻ると進むを何回か押してしまったので、同じコメントを送信てしまったかもしれません。すみません。

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