作戦見積の結論をオペレーションとして実行するために〜作戦計画を作成しよう

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選択した行動方針から作戦計画へ

以前、作戦見積の解説の中で、「作戦見積の結論が出れば、次は作戦計画の作成に移行します。」
と書きました。
(その時の記事はこちら→「どう戦うべきか?を決める作戦見積〜全ての要因を検討して最良の行動方針を導き出す」)
では、その作戦計画ってどんな内容になるのか?
そんな疑問を持たれた方のために、今回は作戦計画について説明したいと思います。
ただ、これを詳細に説明しようとすると、一般の方にはちょっと複雑すぎるんです。
なぜなら、作戦計画には、計画本文のほかに多数の別紙があるので。
なので、今回はそのキモとなるところを焦点に、できるだけ簡潔に解説したいと思います。
なお、今回参考にするのは、いつもの野外令(1968.3)に加え、野外幕僚勤務(同じく1968年版)も参考にします。
作戦計画に関しては、野外幕僚勤務の方により詳細に記載されています。
いずれも、国会図書館デジタルコレクションで閲覧できますので、気になる方はそちらもご確認くださいませ。

そもそも作戦計画とは?

まずは教範にどのように記載されているか見ていきましょう。

野外令では「作戦に関する計画」の項に、「任務を達成するため、構想、指揮下部隊の運用、その他統制及び調整について、作戦又は戦闘の終始を通じ準拠とすべき必要な事項を定めたものである」と記載されています。

野外幕僚勤務では「任務を達成するための指揮官の構想、部隊の運用、その他統制及び調整並びに情報、人事、兵站について、当該作戦又は戦闘の終始を通じて準拠となる事項を定めたもの」とされています。

どちらも似たようなことが記載されていますが、いずれにせよ、オペレーションを実行する際のよりどころ、みたいなものであることが分かりますね。

では、そこにはどんなことを記載するのか?
野外幕僚勤務で確認すると、以下のようになっています。

①状況
指揮官の決心の背景となった事実、例えば敵や関係部隊に関する事項など。ただし別紙に記載する場合もあります。
②構想
方針と指導要領。これは後ほど解説します。
③各部隊の任務
指揮下部隊に何をさせるのかを記述します。

この後に、人事・兵站や指揮・通信に関する事項がついてくるのですが、作戦計画上のキモとなるのはこの3点です。

作戦計画の第1歩は作戦図の作成から

記載すべき内容が分かったところで、次は作成手順について。
まず一番最初にやるべきは「作戦図を作成する」です。

でもどうやって・・・

心配いりません。
すでにそのベースはできています。
作戦見積の記事を思い出してみて下さい。
攻撃する場合の行動方針の図はこんな感じでしたね。


そして、結論ではO-2を採用しました。
これを作戦図にするとこうなります。


えっ?!て感じになりますが、本当にこんな感じです。
実際の作戦図には、指揮所の位置と予備隊が表記されるのですが、簡略化のため省略しています。
部隊長はこれを見れば、師団の作戦が理解できます。
これに解説を付記したものが下図です。


作戦図とは、いわば作戦のコンセプトを見える化したもの。
ちなみに、この作戦図1枚で全ての作戦参加部が、共通認識を持って会話できるのがすごいところ。
作戦図に表記されない火力戦闘部隊、障害処理部隊、後方支援部隊など、何をすれば良いかわかるのです。

あとはこれを文書にすれば作戦計画になります。

作戦計画の本文

先述の通り、最初に記載する「状況」は別紙に書かれることが多いので、今回は②の構想以降について説明します。
構想は「方針」と「指導要領」ですが、どちらもすでに作戦図に記載されています。

方針を文字にすると以下のような感じです。

(1)方針
 Dは、08.010600攻撃開始、2コiを並列、B道沿いに攻撃して8月3日までにオ山一帯を奪取し敵MRを撃破する。(※Dは師団、iは普通科連隊、MRは機械科連隊を意味します。ちなみに、期限は本来任務分析の中で案出されます。)

作戦図の通りですね。
では次に指導要領。
ここでは、近接戦闘部隊の運用、火力運用、対空、障害処理、戦闘展開など、作戦図だけでは読み取れない事項も記述されます。
一例としては以下のような感じ。

(2)指導要領
ア 近接戦闘部隊の運用
(ア)南から1i、2i、主攻撃1i
(イ)主攻撃をもってエ山一帯を奪取後、予備隊をもってオ山一帯を奪取する。
(ウ)助攻撃の2iをもって1iの側背を掩護する。
(エ)敵の逆襲に対しては、DA(野戦特科)の主火力を指向しするとともに速かに予備隊を戦闘加入させこれを撃破する。
イ 火力運用
 Dは、攻撃開始前日より火力戦闘を実施して敵の防御組織を破壊するとともに、敵の砲迫を制圧して早期に火力の優越を獲得する。
(以下、省略)

火力運用や対空、障害処理などは、作戦見積の中の「我が行動方針の分析」の中でシミュレーションしていますので、その際に抽出されたポイントを計画本文に記述し、詳細は別紙に記述します。

そして各部隊の任務。
シンプルに記述していきます。

(1)1i:
   +2コCo /TK Bn
   主攻撃となりエ山一帯を奪取
(2)2i:
   +1コCo /TK Bn
   助攻撃となりウ山一帯を奪取
(3)1TK Bn
  ア 2コCoを1iに、1コCoを2iに配属
  イ  Bn(ー)
    D予備
   以下省略

これ以上書くとかなりマニアックになりますので、この辺でやめておきます。
ちなみに、「1i:」の”:”は「作戦図を見てね」の意味です。
またCoは中隊、TK Bnは戦車大隊を表しますので、第1普通科連隊に第1戦車大隊から2コ戦車中隊が配属されたことが読み取れます。  

簡潔に作ることが重要

作戦計画を作成する際に最も重要なことは、「いかに簡潔に作成するか」です。
私が現役の頃、ある演習のときに某連隊が数百ページに及ぶ作戦計画を作ってきました。
その連隊長は、「すっごくよく考えた計画を作ったぜ!」という気分だったかもしれませんが、渡された隷下部隊はうんざり。
普通の本でも数百ページ読むのは疲れますし、短時間に全てを頭に入れることはできません。
そもそも、野外令の「戦いの原則」では、「戦いは、錯誤と混乱を伴うのが常態である。このため、作戦はすべて簡明を基調としなければならない。」とされています。

最初に書いたように、作戦計画は作戦のよりどころ。
複雑な作戦をいかに簡潔明瞭に表現するか。
ここが指揮官と幕僚の腕の見せ所ですね。
皆さんの参考になれば幸い。

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作戦見積の結論をオペレーションとして実行するために〜作戦計画を作成しよう” に対して2件のコメントがあります。

  1. 鈴木啓祐 より:

    ミリたく様

    お世話になっております。
    鈴木です。

    作戦計画の記事、ありがとうございます。
    参考にさせていただきます。
    作戦計画の考え方、書くことがわかりました。

    ただ、日常(プライベート)のやることや、仕事で作戦図を書くとどうなるだろうか、、、と考えてしまいます。

    たとえば、私が転職の面接で幕僚見積もりを使ってみた時には、電話での面接でした。自宅での電話面接ですので、地域見積はほとんど考えずに、敵の可能行動と我の行動方針ばかりを考えて、シミュレーションしてました。すると、作戦図はどう描くのだろうか、、、、と思ってしまいます。

    何かアドバイスあれば、お願いいたします。

    1. militac-san より:

      鈴木様
      いつも関心を持って読んでいただきありがとうございます。
      転職の面接の際に、敵の可能行動と我の行動方針をお考えになったとのことですので、この場合はQ&Aを検討したことになろうかと思います。
      もしこれを戦術の思考過程に当てはめるとすると、作戦見積の「我が行動方針の分析」が近いのではないでしょうか。
      つまり、こちらの発言(我の行動)に対する相手の反応(敵の可能行動)をシミュレーションし、ベストな回答(処置・対策)を導き出したということです。
      このケースの場合は、コンセプトの見える化は文字ベースで十分ですので、作戦図を作成するまでもないかと思います。
      日常の活動に戦術の思考過程の全てが当てはまるというものではありませんが、その一部でも取り入れてみるというのは価値あることだと思います。
      引き続きチャレンジして頂ければ幸いです。

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