情報リテラシーをミリタリーの手法で向上させる〜先入観を排し否定情報と肯定情報から判断する方法

誰でも必要な情報リテラシー

私たちは普段の生活の中で、報道やネット情報など、さまざまな情報に触れています。
特にここ10年くらいは、SNSの発達により処理しきれないぐらいの情報が溢れかえっていますね。
中には真贋不明の情報もちらほら。
ウクライナ情勢に関するロシアと西側諸国の情報発信なんかは、その典型だと思います。
だからこそ情報リテラシーが大事になってくるのですが、「それってどうすれば身につくの?」と思う方もいるかと思います。

ということで今回の記事では、情報リテラシーを向上させるために参考になりそうな、ミリタリーにおける情報の扱い方を解説したいと思います。

そもそも情報リテラシーとは?

情報リテラシーに関する定義は、日本と海外では異なるようです。
また、しばしばITリテラシーやメディアリテラシー、コンピューターリテラシーと混同されたりもします。
でも、「リテラシー」という単語はもともと「識字」を意味しているので、「正しく読み解いて使う力」と解釈するのが妥当だと思います。

独立行政法人国民生活センターのサイトには、「情報を適切に判断し、情報を通じて決定を下す能力」とあります。

情報リテラシーは「情報を適切に判断し、情報を通じて決定を下す能力」と定義されます。つまり、生の情報やデータがどれか分かるとか、 作成者・発信者の意見が混じった情報がどれか 判別できる、といったことです。

出典:フェイクニュース拡散のしくみと私たちに求められるリテラシー

この記事では、この定義をベースとして、特に「情報を適切に判断」という部分を焦点に説明していきます。

情報の確度を上げるミリタリーの手法

厳密に言えば、情報は「情報資料」と「情報」に区分されます。
「情報資料」はみなさんが最初に触れる情報で、「情報」は決心の材料になるよう情報資料を処理したものを指します。
例えば、偵察部隊が前進中の戦車10両を見つけたとして、そのまま「戦車10両前進中」と報告すれば情報資料になり、これを処理して「戦車1個中隊規模が戦闘展開中」とすれば情報になります。
ミリタリーにおいて、幕僚が指揮官に提供するものは「情報」であることが多いです。
中隊長クラスの現場指揮官であれば、次々と入ってくる部下からの報告(情報資料)を、自ら頭の中で処理することもあります。

いずれにせよ、指揮官の状況判断の入り口は情報資料を処理した情報なんですね。
これが的外れだったりすると、指揮官が誤った判断をすることになり、以降のプロセスが全て狂ってしまいます。

では、その確度をどうやって上げていくのか?
それには次の2つのステップがあります。

ステップ1:先入観を排する

最初のステップは、「先入観や根拠のない想像にとらわれない」ということ。
これは案外難しく、それなりのトレーニングが必要となる部分です。
人間は感情の動物なので、どうしても先入観にとらわれてしまいがち。

例えば、先日、ポーランドにミサイルが着弾したというニュースがありました(2022年11月15日)。
これを聞いた時に「ロシア=常に悪」と思っている人には、「これはロシアの仕業である」と結論づけてしまいます。
もちろん、侵略者はロシアであり、それは間違いないのですが、ウクライナとその周辺で起こっているすべての物事に対し、「ロシア=悪」というフィルター(先入観)にかけて情報資料を処理してしまうと、事実誤認をしてしまうかも知れません。

では、先入観を排するにはどうすればいいのか?
なかなか難しいのですが、まずは、もたらされた情報の内容を冷静に確認することがポイント。
ミリタリーの場合、敵がいないと思っていた場所に「敵発見」の報告を受けた時に、「いや、そこにいるはずない。間違いだろう。」と思うのではなく、「敵」と報告された内容を確認します。
現場では、緊張感や直近で起きていることの雰囲気から、強い思い込みや先入観にとらわれてしまうこともあります。
全体が見えていないから仕方のないことではありますが。
だから指揮官は、まずは先入観を排除してその内容を確認するのです。
もし、確認した結果が「戦車らしきもの十数両がこちらに前進中」であれば、それだけで敵か味方かは言い切れないということになります。
もしかしたら、前方地域での任務を終えて戻ってきている味方の警戒部隊かもしれませんし、こちらの警戒網を突破してきた敵かもしれません。
なので、この時点では「戦車らしきもの十数両がこちらに前進中」という事実に基づいての情報だったと一旦受け入れるようにします。

ステップ2:否定情報と肯定情報から妥当性を判断

客観的に情報の内容を把握したら、次に現場が「敵」と判断した根拠を確認します。
もしそれが、「戦車らしきものの形状が敵戦車と酷似しているから」であれば、敵であることを肯定する「肯定情報」になります。
しかし、これだけで判断してはいけません。
他にも関連する情報がないかをチェックします。
その中で、仮に「警戒部隊は敵と接触、後退開始の報告あり」という情報があれば、今こちらに向かっているのは味方部隊の可能性が高く、敵であることを否定する「否定情報」になります。
指揮官はこれらの肯定情報と否定情報の両方を確認しますが、判断に必要な情報がすべて集まるとは限りません。
なので、最後は妥当性から判断します。
例えば、「戦術的な観点からはどちらが妥当なのか」とか、「時系列的にどちらが妥当なのか」のようにロジカルに。
もちろん、これで100%正確に判定することはできませんが、情報の確度を上げることはできます。

実生活への応用

この手法は実生活にも適用できます。
一例として、安倍元総理の国葬に関して「電通が入っている」と断言し、のちに事実ではなかったとして謝罪したという事案を取り上げてみたいと思います。
なお、彼の発言の善悪を問うのがここでのテーマではないことにご注意ください。
問題となった発言の抜粋は以下の通りです。

”僕は演出側の人間ですからね。テレビのディレクターをやってきましたから。それはそういう風に作りますよ、当然ながら。政治的意図がにおわないように、それは制作者としては考えますよ。当然これ電通が入ってますからね。”

出典:テレビ朝日 玉川徹氏国葬「電通」発言全文 何を語り、何を謝罪したのか 一部報道の文字起こしは不正確

この部分だけがメディアに頻繁に取り上げられていましたが、出典のリンクをクリックすれば、前後の発言も含めて確認することができます。
まずは国葬や発言者に対する感情を抜きにして、この情報の内容を確認してみましょう。
発言者は「電通が入っている」ことを「当然」と表現していますので、先ほど説明したステップ1に従い、先入観を排して発言を確認すると、「国葬に電通が関与するのは当たり前のことである。」ということになります。
しかし、それだけでは真偽は判断できないですよね。
なので、続いてステップ2として、そう判断した根拠を前後の発言も含めて確認すると、「自分が演出側の人間なのでカラクリを分かっている」に集約されると思います。
発言者には、これを肯定情報にしたい意図があるように思えますが、客観的にみると事実の裏付けのない、極めて弱い肯定情報と言えるでしょう。

そこで、電通の関与の有無を判定するため、その他の情報も確認してみます。
すると、9月5日のNHKの報道の中に、「国葬の演出業務を”ムラヤマ”という会社が落札」というものがありました。
しかも1社入札なので、他のイベント会社や広告代理店は入札に参加していません。
これは政府の公式発表に基づくもので、公開情報から裏が取れるので一定の信憑性があり、電通が関与していることを否定する「否定情報」になります。

最後に妥当性から考えてみましょう。
仮に政府発表の1社入札が嘘で、裏で電通を手引きしていたとします。
電通に関しては、東京オリンピックでの談合の件もあるので、もしバレてしまったら政権にとって大きな痛手となることは間違いありません。
では、国葬における菅元総理の弔辞は、「そんなリスクを冒してまで電通に演出を依頼するものか?」と考えると、そこまでのものではないように思えます。
なぜなら、国葬での弔辞が感動的だったからという理由で、政府や自民党の支持率が上がることはないからです。
仮に上がったとしても、一過性のものでしょう。

以上より、「電通が関与している」という発言は、「発言者の思い込みであり、事実ではない可能性が高い」と判断できます。

まとめ

今回は報道を事例に、ミリタリーの手法を活用した情報リテラシーの上げ方を説明しましたが、これはメディアに限らず、SNSや同僚との会話にも応用できるものです。
情報の内容が衝撃的であるほど、この手法を活用していただければ冷静に判断できるようになり、情報に振り回されることも少なくなると思いますよ。

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