陸上自衛隊の情報見積〜競合分析も緊急事態対応もこれを応用すればバッチリ?!

思わぬ事態を回避したい!

どんな企業や組織でも、「競合がまさかあんな手段でくるとは!」と不意打ちを喰らったり、「予期しない不祥事で会社が大ダメージ」なんて緊急事態に遭遇する可能性は常にあります。
こんな予想しなかったような事態を避けたいと思い、いろいろ手を尽くしていると思います。
何が起きるのかを事前に予測できれば、思わぬ事態を回避したり、起きたとしてもそのダメージを最小限にすることも可能ですが、これはなかなか難しいですよね。
そこで、陸上自衛隊が作戦計画を立案する際に行う「情報見積」を適用すれば、起こり得うるさまざまな事態を見積り、的確な対応が取れるようになるかも知れません。
今回の記事では、そんな情報見積について解説したいと思います。

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情報見積とは

情報見積は情報幕僚が行う見積の一つで、作戦計画を立案する際に、敵の可能行動(敵が取り得る行動)を案出するために行います。
平たく言うと、戦場において「敵がどんなふうに攻撃を仕掛けてくるか?」とか、「敵は獲得した地域をどう守ろうとするか?」を予測して、こちらの行動方針を検討するための材料を提供するものです。
なので、戦い方を決めるために不可欠な要素で、かなりの的確性が求められます。

情報見積の手順

情報見積のための準備

情報見積を行う前の準備段階として、まず任務分析を行なって、組織として達成すべき目標を明らかにしておきます。
その要領は別記事で解説していますので、そちらを参照してください。
(→記事の最後にリンクがあります。)
目標を明らかにしたら、次に地域見積を行います。
これは、戦場の地形を分析して、彼我の作戦への影響度を検討するものです。
そのアウトプットは、こちらが攻撃する場合は攻撃目標に適する地形と攻撃方向に適する経路、防御する場合は防御を行う地域と敵の攻撃経路に適する経路になります。
「我が攻撃、敵が防御」の場合の地域見積のアウトプットのイメージは下の図の通りです。

これを作るためには、地図の等高線や河川などを色分けしたり、地形や天然障害の持つ価値を検討したりと、やや骨の折れる作業が必要になりますが、その説明はまた別の記事でしますね。

情報見積の構成

地域見積まで終わったらいよいよ情報見積です。
情報見積は、以下の要素から構成されています。

  • 敵の可能行動の列挙
  • 敵の可能行動の採用公算の順位
  • 我が任務達成に重大な影響を及ぼす敵の可能行動
  • 我の乗じ得る敵の弱点

以下、我が攻撃、敵が防御の場合で、それぞれの要素を説明します。

敵の可能行動の列挙

敵がどこを第一線として防御する可能性があるのかを列挙します。
これは、地域見積で敵の防御に適するに地域が案出されていますのでそれを踏襲します。
地域見積の図をもう一度見てください。
今回の場合は、オ山を絶対に確保しなければならない地域として、以下の地線を第一線として防御すると見積もられます。
・ア山〜イ山の線(E-1)
・ウ山〜エ山の線(E-2)
※EはEnemy(敵)のEです。
これで、敵の大まかな防御要領が案出できました。
陸自ではこれに加え、敵が効果的な防御戦闘を成り立たせるために、主力の戦闘に連携する行動も併せて考察して列挙します。
例えば、電子戦、航空攻撃などです。

敵の可能行動の採用公算の順位

ここでは、E-1とE-2のどちらの公算が高いかを明らかにします。
もちろん、直感で決めてはいけません。
戦術的な妥当性と兆候から考察します。
もし、判断材料になるような兆候が出ていれば、そちらを優先して順位づけをします。
今回は敵が防御という想定ですので、陣地構築などの工事を行なっているのが普通。
これを航空偵察や地上からの偵察で、「どこに障害を作っているか?」とか、「一番工事が集中しているのはどこか?」などの敵の動き(兆候)を把握して、採用公算の順位を考えます。
しかし、ここで注意が必要。
敵も馬鹿ではないので、動きを把握される危険性を十分に承知しています。
なので、「だまし」を入れて誤判断させようとします。
だから、分かりやすい兆候が出ていたとしても、敵の編成・装備や想定される敵の作戦目標、一般的な戦術常識を加味した「戦術的妥当性」のフィルターにかけなければなりません。
また、兆候と戦術的妥当性から検討しても、E-1とE-2のどちらの可能性が高いか判断できない場合があります。
その場合は、無理に順位づけせずに「判断できない」として、その理由を明確にしておけばOKです。

我の任務達成に重大な影響を及ぼす敵の可能行動

何やら長い名称でちょっと分かりにくいかもしれませんが、要は「これやられたら、うちは相当やばいよな」と言えるような敵の可能行動のことです。
陸自では略して「重大EC(EC=Enemy Capabilityの略)」と呼んだりします(→正式名称ではありません)。
個人的には、情報見積の中で一番大事な項目だと思っています。
ここで妥当な見積ができていれば、「想定外だ!」というような事態を避けらる可能性がアップするからです。
今回の場合で一例を挙げると、「防御地域の巧妙な欺騙(ぎへん)による2段攻撃の強要」があります。
つまり、「E-1と判断して攻撃を開始したものの、実際はE-2だったので、再度第一線陣地に対する攻撃を行う」というもので、時間や弾薬などを大幅にロスしてしまいます。
なぜなら、第一線陣地は強固に構築されている場合が多く、火力や障害処理能力を集中し、強大な戦闘力をしっかり展開させてから攻撃するので、第二線陣地への攻撃に比べて、攻撃準備にかなりの時間を要します。
そうなると、上級部隊から示された時期までに攻撃目標の奪取ができなくなり、また、敵の増援部隊が来てしまうとこちらが不利になったりするので、結果的に任務が達成できなくなります。
「我の任務の達成に重大な影響を及ぼす」というところの意味がご理解頂けたでしょうか?

我の乗じ得る敵の弱点

敵は完全無欠ではなく、必ず何かしらの弱点を抱えています。
それをここで列挙してみるのですが、その案出は意外と難しいです。
相手のことを考えると、なぜかすっごく強そうに見えて、太刀打ちできないんじゃないかと思ってしまうからです。
しかし、冷静に敵の編成・装備、防御準備の状況、敵が想定する戦況推移(それぞれの陣地でいつまで耐えるつもりなのか、主力や増援部隊はいつ頃到着する見込みなのか、など)を考えてみると、弱点が見えてきます。
例えば、「敵は十分な予備隊が確保できていないので、逆襲(取られた陣地を取り返す戦闘)の必要性やヘリボン攻撃(敵の後方地域にヘリで膠着して兵站施設などを破壊する攻撃)が同時に起きたら対処できない。」とか、「第一線陣地の防御準備に不十分な箇所がある。」など。
冷静かつ客観的に考えるといくつか見つかると思いますよ。

企業活動への適用方法

競合分析では・・・

市場分析のあとの競合分析の際に、ただ市場における競合他社の状況を整理するだけではなく、「どんなアクションを起こしてくるか?」を列挙してみるのも一案ですね。
おそらく、多数の可能行動が出てくるとは思いますが、これをいくつかのパターンに整理・集約していけばシンプルになると思います。
そして、競合他社の可能行動の中身を具体的に思い描く中で、「これは絶対に見逃せんな」というものを重大ECとして位置付け、さらに「どこにつけいる隙があるか?」を考えれば良いと思います。
これは業種によるところもあり一概には言えないのですが、視点としては、競合他社の技術に係る事項、サービスの質、営業活動の傾向、社内のヒエラルキー、経営層などキーパーソンの特性など様々な観点から分析すれば導き出せると思います。

不祥事などの緊急事態対策では・・・

会社の特性から、報道発表に至りそうな重大事案を考察します。
内規違反、法令違反に起因するものなど、挙げればきりがないと思いますが、会社のイメージを損なうようなものに注視して列挙すれば良いかと思います。
これも競合分析と同様に、いくつかのパターンに整理・集約するようにしましょう。
そして、その中から「この種の不祥事は致命的」と言えるものを選定します。
戦う相手が不祥事の場合、「我の乗じ得る敵の弱点」を列挙するのは難しいのですが、「こんな対策があれば、想定する不祥事は発生しない」と言えるものを列挙してみましょう。
ここでは、その実行の可否は問わないようにします。
その対策がどこまでできるか、どこまでが現実的かは、こちらの具体的な対応策を案出するなかで検討すれば良いと思います。

まとめ

いかがだったでしょうか?
情報見積は、こちらの具体的な戦い方や対策を案出するための糸口になることがお分かり頂けたかと思います。
皆さんの会社の特性に合わせて、陸自の情報見積をアレンジしながら活用してみて下さい。
今までよりも、もっと具体的な戦略の立案や緊急事態対策が案出できるようになると思いますよ!

皆さんのご参考になれば幸いです。

リンク:目標の設定には任務分析〜与えられた任務から達成すべき目標を明らかにする手順(その1)


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